森の中をさまようように(7)

 両宰どの[ウベラ・ガスムン]による大掃除の風が吹きすさぶ中、薔薇園[執政府]の離れにて、近北公[ハエルヌン・スラザーラ]と今の大公[スザレ・マウロ]の会談が行われた。「いまさらなにを」と思いつつ、サレも近北公の指示に従い、陪席ばいせきした。


 まず、短い話し合いの冒頭で、大公は追放者名簿の破棄を求めたが、近北公はまったく相手にしなかった。

 それでも大公はめげずに、つづいて、次のように近北公をさとした。

「東州公[エレーニ・ゴレアーナ]と、彼女を姉と呼んでいる公女[ハランシスク・スラザーラ]は、二人とも前の大公[ムゲリ・スラザーラ]さまの薫陶くんとうを受けた姉妹とも言える間柄だ。その二人の婿同士がへいを交えることは、前の大公さまの望む所ではない……。譲れぬものを譲り、和議の道を模索するのが、いまや覇者とも言える近北公の務めではないかね?」

 近北公が無言でいると、大公が話をつづけた。

「和睦の文面は考えてある。この書状におうを書いてくれまいか?」

 そのように問われた近北公だったが、書状の中身を確認しようともしなかった。

 しばらくの沈黙の後、近北公が「姉妹の婿同士がいくさね」と言いながら、おもむろに、書状の横に添えられていた筆を手にした。

 そして、次の瞬間、その筆を折り、大公の眼前に投げ捨てた。言葉ではなく、行為で、和睦のないことを近北公は大公に示した。

 乱暴な行いに驚いている大公に向けて、近北公は席を立ちながら、「話し合いは終わりだ。おいぼれは黙って大公の椅子に坐っていればいい。これ以上、まつりごとに口を挟むな。おまえは単なるお飾りなのだ。それを自覚しろ」と言い放ち、場を去って行った。

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