花駆ける春(2)

 晩春六月。

 公女[ハランシスク・スラザーラ]が懐妊した。

 サレがお見舞いに参上すると、つわりのひどい公女は彼につらくあたった。

「月に一度、苦しめられるだけでも忌々いまいましいのに、女というだけでなぜ、このような目に会わなければならないのか。忌々しい。なぜ女になど生まれされられたのだ、私は」

 吐き捨てるように言い放つ公女に対して、サレは次のように応じた。

「あなたさまが男にお生まれなら、気楽に本など読んでお暮しになられてはいませんよ」

 サレの言に、タレセ・サレに背中をさすらせながら、公女が「気楽に生きてきたわけでも、生きているわけでもない。……人間なんてくだらない」と言ったので、「いまごろ、お気づきになられたのですか?」とサレは答えた。

 すると、サレの声を無視するように、めずらく公女が大きな声で、「とにかく、これで、あの男ともう寝なくてもよいのだろう?」と詰め寄った。

 それに対して、「いえ、女のお子さまを産んでいただくまでは」とサレが口を開いたところ、タレセが「いまは言わなくても」というような顔をした。

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