北へ(4)

 きんほくしゅうの州都スグレサは、かつて近北公[ハエルヌン・スラザーラ]が言っていた通り、入り組んだつくりとなっていた。

 大通りもコステラに比べて狭く、行き止まりの道も多いとのことだった。敵軍に攻められた場合にその進攻を遅らせるため、そのような造りになっていたのだろう。

 しかしながら、サレとしては、「駒あそび」の盤のように整然としたコステラの街並みの方が性に合った。睡蓮館までの道を馬で進んでいる際に、曲がった道などを通ると、まっすぐに直したくなった。


 スグレサ到着後すぐに、サレは睡蓮館を公女[ハランシスク・スラザーラ]の従者として訪問した。二度目の呼び出しを受けたのは、それからしばらくしてからのことだった。

 同じように参上を命じられていた[モルシア・]サネおうと一緒に(※1)、控えの間で待っていると、ラシウ[・ホランク]がふたりを近北公の執務室へ案内した。


 中には、西せい[ザケ・ラミ]どのが先に入っていて、近北公の酒の相手をしていた。

 太り気味の近北公は何もかもがものげな様子で、ゆっくりと杯を傾けていた。

 ふたりの坐っていた円卓に、サネ翁とサレが腰を下ろすと、ラシウが手際よく酒杯を用意した。

 乾杯をしたのち、サレは都でサネ翁と会っていたが、改めて、近北公の口から、翁の紹介があった。

「やってもらいたい仕事はいくらでもあるのに、隠居したいなどとふざけたこと言う、困った老人だ。一緒に仕事をしてもらうこともあるだろう。万事、なかよくやってくれ」

 そのように言われた老人は呵々大笑してから、次のようにサレへ声をかけた。

「こんな老人をこき使って、心を痛めぬお方だ。仕えにくいことこの上ないが、よろしく頼むよ。早く近北州に慣れて、少しでも私の仕事を減らしてくれ」

 サネ翁の言葉に、「返答に困ることをおっしゃるお方ですな」とサレは返答した。

 すると、「そうかな」と言いながら、サネ翁がサレに向かって杯をかざしたので、彼もそれに倣った。

 酒席はしばらく続いたが、近北公が次の予定を無視して飲み続けようとしたところ、西左どのに無言で酒杯を取り上げられた。

 その様を見て、サレがいとまいをすると、近北公から、公女に伴って、北州公 [ロナーテ・ハアリウ]のもとにあいさつへ出向くように命じられた。



※1 同じように参上を命じられていた[モルシア・]サネ翁と一緒に

 モルシア・サネ。

 南管区所属のひっとう右騎射うきい。管区間の調整と外交を担った。近北州の内政において、ウベラ・ガスムンに次ぐ重臣。このとき、よわいろくじゅうであった。

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