権威権力 (5)

 公女[ハランシスク・スラザーラ]との婚儀をもって、近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]は入り婿し、姓をスラザーラへ改めた。

 ブランクーレ家の当主は、高家[ボスカ・ブランクーレ]どのが継がれたが(※1)、しゅうぎょ使の位は引き続き、ハエルヌンさまが維持した。

 スラザーラ、ブランクーレ両家の家宰にはウベラ・ガスムンが就き、両宰と称されるようになった。

 両宰どのに代わり、家宰職の実務部分を担う家宰代が置かれることになり、サレはスラザーラ家の家宰代に任じられた。

 近北州の南管区に与えられる予定であったサレの領地は、州都スグレサから距離があり、また、公女が独り立ちするには距離を取った方がよいと判断し、彼は家宰代へ就くことを拒んだが、公女が許さなかった。



※1 高家[ボスカ・ブランクーレ]どのが継がれたが

 近北州の金山の所有権を巡り、ブランクーレ家が骨肉の争いを演じた父子戦争の結果、ブランクーレ家の男子はハエルヌンとその甥であるボスカを残すのみとなった。

 ボスカのハエルヌンを恐れることははなはだしく、野心を疑われることを恐れて、当初、家督の譲り受けを拒否した。

 ガスムンが懇願し、ハエルヌンが恐喝することで、当主になることをボスカは受け入れたが、彼は念には念を入れた。

 相続は形式的なものであり、一部の儀式を執り行うこと、政務に関する重要な書状には、ハエルヌンの同意を得た上でなければ署名に応じないこと、また、ハエルヌンとハランシスクの間に男児が生まれれば、その子に家督を早期に譲ることを伯父とガスムンに確約させた。

 その書状は現存しており、裏書には、ロナーテ・ハアリウ、ルウラ・ハアルクンらの花押に混じって、サレのものも記されている。

 家督相続直後、ボスカは在任期間中に、ゆいいつ自らの意思で州令を発布した。その内容は、ボスカの名で出された重要な命令書について、ハエルヌンの裏書のないものはすべて無効とする、というものであった。

 なお、父子戦争については、ハエルヌンによる八九一年のムゲリ・スラザーラへの投降をもって終結したとする者が多数だが、中には、九〇六年のバラガンスの戦いをもって終わりとする者もいる。

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