亡霊 (2)

 九月三日朝。

 公女[ハランシスク・スラザーラ]が鳥籠[てんきゅう]に出向き、幼主[ダイアネ・デウアルト五十六世]および摂政[ジヴァ・デウアルト]に会った。

 公女は、スラザーラ家の当主として、大公[ムゲリ・スラザーラ]の葬儀を終えたことを報告した。

 また、スラザーラ家当主として公女を支えることを約した、主だった家臣たちの連判状の写しをふたりに渡した(※1)。加えて、スラザーラ家当主として、幼主に対して忠誠を誓った(※2)。

 サレは別室にて、改暦に関して、スグレサへ戻る近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]へ報告する内容を協議しており、また、身分のこともあり、公女の様子を見ることはできなかった。

 しかし、聞いた話によると見事な立ち居振る舞いであったとのことで、家宰として鼻が高かった。



※1 主だった家臣たちの連判状の写しを渡す

 この連判状は、ブランクーレの命により、取り急ぎ、ムゲリの葬儀に参列するために都へ入っていた、各州の旧家臣たちに書かせたものであった。

 そのため、西南州のタリストン・グブリエラなどのなまえがない。

 そのため、正式なものが、ブランクーレとハランシスクの婚儀が行われた翌年九〇〇年九月までにまとめられ、ハランシスクが婚儀の報告をする際、五十六世に提出された。

 ブランクーレの意図としては、スラザーラ家の家督問題について、宮廷の口出しが無用であることを知らしめるために、慣例にない連判状の提出を行わせたのであろう。

 また、ムゲリの旧家臣たちに対し、(その後継者として)自らの権威を確認する意図もあったのかもしれない。


※2 幼主に対して忠誠を誓った

 連判状の提出と幼主に対してスラザーラ家のみが直接忠誠を示すことによって、ブランクーレ家、ゴレアーナ家、グブリエラ家の三家を筆頭に、ムゲリの旧家臣だった者たちが、デウアルト家の陪臣であることが再認識された。

 しかしながら、ムゲリ存命の時とはちがい、ゴレアーナ家やグブリエラ家は陪臣の身でありながら、直接宮廷とのやりとりをその後もしばらくつづけた。両家を押さえつける力がブランクーレには、その時点でなかったためである。それには、「短い内乱」の終結を待たなければならなかった。

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