後継者たち (三)
サレは長椅子に身を横たえながら、彼の帰宅を待っていたゼヨジ・ボエヌに、[オルネステ・]モドゥラ侍従との話し合いの内容を伝えた。
聞き終わるとボエヌは足早に執務室から出て行った。
その後、サレが襲って来る眠気と戦いながら、彼の背負っている様々な仕事について、家臣たちと協議を行っていると、品のない足音が廊下から聞こえて来た。
部屋の中に入って来たオントニア[オルシャンドラ・ダウロン]に「なんだ。鳥籠[宮廷]の使者でも来たのか」とサレが問うと、彼が「それなら先ほどから待たせている」といったものだから、サレは飛び起きた。
「冗談が通じない奴だ。鳥籠の使者を待たせるばかがどこにいる」
「命じたのはノルセンではないか」と不満を口にするオントニアを無視して、サレは別の家臣に、すぐに会うので饗応の間へ通せと伝えた。
長椅子に坐り直したサレが、煙管に煙草を詰めながら、「それで、だれか来たのか。また、めんどうなお人ではないだろうな」とオントニアに問うた。
それに対して、「はじめて聞いた名だったが、あれは希代のいくさ人だ」と、オントニアが言いながら木札を差し出して来た。
「おまえがそういのならば、よほどの者だな」と言いつつ、サレが木札を確かめると、そこにはオヴァルテン・マウロ(※1)と記されていた。
一目したサレは深くため息をついてから、「やはり、めんどうな方ではないか」と嘆いた。
※1 オヴァルテン・マウロ
スザレ・マウロの異母弟。スザレを軍務、政務の両面で陰から補佐した人物。スザレの軍事的成功は彼無くしてはなかったと伝わっている。その力量は広く認められていたが、スザレの他の側近との折り合いがわるく、不遇をかこっていた。
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