後継者たち (二)

 [オルネステ・]モドゥラ侍従の屋敷を辞去したサレは自宅に戻った。

 サレ家の門前には、すでに来客たちが彼を待っていた。しかし、サレは客たちを無視して家内に入り、執務室へ向かった。

 執務室の長椅子に、オントニア[オルシャンドラ・ダウロン]が横たわって梨を食っていたので、サレは力の限り、彼の頭を殴りつけた。

「このばかが。なぜ、このようなところにいる。与えた仕事はどうなっているのだ?」

 叱責に対して、髪の乱れを直しながら、オントニアが「部下に任せて来た」と平然と口にしたので、サレはもう一度、怒りのままに、彼へ拳を見舞った。

「そちらのほうがうまくいくだろうよ。もういい。門の前に立って、客を見張っていろ。おまえに文句を言うような肝の据わったやつはいまい。それくらいが、おまえにできる仕事だ」

 「はい、はい」と言いながら、部屋を後にするオントニアの背中に向かって、「おまえとちがって、私は忙しいのだ。鳥籠[宮廷]の使者だろうが何だろうが待たせておけ。いいな」とサレは声を荒げた。

 それに対して、オントニアはサレの方を向くこともなく、右手を振りながら、再度、「はい。はい」と返事をした。

 サレにしてみれば、苛立たしいこと限りなかった。

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