エレーニ・ゴレアーナ(八)
昼過ぎ、
「お部屋で一通り暴れたあと、いまは寝ているわ。後片付けがたいへんよ」
「当たり前の話だけれど、あなたのせいではないわ」
その物言いはサレの心に染み入ったが、「偉い人たちはそう思っていないようなのです」と言わざるを得なかった。すると、慰めようがなかったのであろう、タレセは「あら、まあ。それはたいへんね」とすこし間の抜けた声で応じた。
サレとタレセが話している間に、公女が予言していたとおり、部分日食が起きた。
サレが寝室の前で公女にその旨を伝えると、室内から、公女が扉に向かって花瓶を投げつけてきた。
花瓶の割れる音を聞くと、サレは再度、ため息をついたのち、となりにいたタレセに、「高いものではないでしょうね?」と声をかけた。
すると、タレセは大きくうなづいて、「こういうことがたまにあるから、安物に替えておいたわ」と頼もしいことを口にした。
それから続けて、「それよりも、
「あなたもたいへんね。ところで、用意していた昼食が台無しになってしまったわ。あなた、代わりに食べていく?」
食欲がないうえに、今まで感じたことのない胃の痛みに襲われていたサレは(※1)、食事を断り、さらに増えた仕事を片付けるため、屋敷へ戻った。
※1 今まで感じたことのない胃の痛みに襲われていたサレは
サレの死因については肺気腫によるものとするのが定説だが、胃癌を原因とする者もいる。その根拠は本回顧録の叙述であろう。
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