スラザーラ内乱記注解

ハランシク・スラザーラ(六)

　鳥籠（とりかご）[天（てん）鷺（ろ）宮（きゅう）]を後にした公女[ハランシスク・スラザーラ]とサレは、そのまま、大橋の前に置かれていた、今の大公[スザレ・マウロ]の天幕に入り、和議の件について話し合いをもった。

　早急に話をまとめるために、出席は、良識[トオドジエ・コルネイア]派からはサレとゼヨジ・ボエヌ、青年[マウロ]派からは今の大公とモウリシア[・カスト]と、四人に絞った。

　サレは公女を先にコステラ＝デイラに戻そうとしたが、彼女なりにサレの身を案じたのか、一緒に帰ると言って聞かないので、話がまとまるまで、別の場所に待機させた。

「当方としては、国主[ダイアネ・デウアルト五十五世]さまおよび公女さまから早急に和議を結べと言われた以上、思うところがないわけでありませんが、それに従うほかはありません」

　サレの言に対して、「こちらも同意見だ」と、抑揚なくモウリシアが答えた。

「こちらの和議の条件ですが、第一は、公女がコステラ＝デイラでお暮らしできるように、そちら側としても、最低限の配慮を示していただきたい」

　サレの提示にモウリシアはひとつうなづき、「承知した」と応じた。

「第二は、南衛（なんえい）府（ふ）監（かん）としての、わたくしの職権を尊重していただきたい」

「構わない」

「第三は、コステラ＝デイラの外周の防壁についてですが、これを、わたくしが南衛府監に就く前の状況に戻すことを条件としたい。まず、四つの大門の周辺については、九月中に必ず、これを実施いたします。その他については、十月までに片付けます。合わせて、再度、防壁を増強する場合は、かならず、そちらの同意を得ることを約束いたします」

　モウリシアが無言で今の大公を見ると、彼もまた無言でうなづいた。

「よかろう。その他の条件は？」

「ございません。そちら側になにかあれば教えていただきたい」

　再度、今の大公と視線を合わせてから、モウリシアが「とくにない」と答えて、和議はあっけなく結ばれた。

　コステラ＝デイラの防壁の改修が完了する十月まで、良識派はサレの家宰のポドレ・ハラグを、青年派は、モウリシアがかわいがっていた実弟を、それぞれ人質として交換することとした。

　サレがその場で、約定書を三通書き、うち、二通について、サレと今の大公が花押を記し、ボエヌとモウリシアが裏書した。

　また、詔書に対する返書もサレが書き、約定書と同じく、花押と裏書を記した。

　それらを四人が公女のもとへ持って行くと、公女は中身を確認せず、今の大公に対して、「大砲はもう鳴らないのだな」とたずねた。

　それに対して、今の大公が、「府監次第です」と答えると、サレに向かって、「気をつけろよ」と言いながら、三通に裏書をした。

　鳥籠[宮廷]への返書を今の大公に委ねると、公女を連れて、サレとボエヌはコステラ＝デイラに戻った。