ハランシク・スラザーラ(四)
公女[ハランシク・スラザーラ]が、国主[ダイアネ・デウアルト五十五世]の私室に呼ばれている間、サレは控えの間の末席で待機していた。
その場には、大貴族や女官に混じって、摂政[ジヴァ・デウアルト]も詰めていたが、型どおりのあいさつ以外の会話を、ふたりは交わそうとはしなかった。
二人きりであったのならば、また話はちがっただろうが、他の者の手前、余計なことを話して、ふたりがつながっている、何かを謀っていると思われるのを、サレは避けたかった。そして、それは摂政も同じであっただろう。
公女の従僕として、サレは
すると、女官は摂政を
女官の見せた、ほんのわずかな動揺から、サレがなにかあったなと感じ取った時、廊下から足音がして、公女が室内へ入って来た。
「私闘をやめさせる
場がざわめく中、公女が詔書を投げ捨てるようにサレへ渡すと、その考えられぬ行為に、大貴族や官女たちは、半ば呆然の態で公女を見た。
常ならば、彼女をたしなめるところであったが、それどころではなかったので、サレは急いで詔書の中身を確認した。
弱々しい女手で記されていた文章を読み終えたサレは、「和議の約定についてまったく書かれておりませぬが?」と、摂政へも聞こえるように、公女へたずねた。
「そんなものは知らん。スザルとおまえで決めることだろう。大砲の音さえどうにかしてくれれば、私から注文はないよ」
サレは「はあ」と一言応じてから立ち上がり、摂政へ詔書を渡した。
摂政は無表情で詔書を受け取ると、すばやく一読してから、サレに向かって、「まちがいがあってはならぬから、念のため、私が御心を確かめてくる。公女さまには、この場でお待ちいただくように」と告げ、従者が近寄って来たのを手で払い、ひとりで部屋を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます