ハランシク・スラザーラ(二)

 国主[ダイアネ・デウアルト五十五世]への上書を携えたゼヨジ・ボエヌが鳥籠とりかご[てんきゅう]に入ると、上を下への大騒ぎとなった。


 上書を受け取らざるを得なかった取次役が、中身を確かめてからと、返事を保留し、改めて鳥籠から使者を出す旨を伝えると、ボエヌは次のように脅した。

「当方としてはそれで一向に構いませぬが、待ちきれなくなった公女[ハランシスク・スラザーラ]さまが、こちらへお出でになるとお言いになられても、ノルセンは止めませぬので、その点は、ご承知おきください」

 ボエヌの言に驚いた取次役が、「しばし待たれよ」と、摂政[ジヴァ・デウアルト]に話を持って行った結果、評議が行われることになり、その場へ、ボエヌも出ることになった。


「主が妄挙に出た場合、お止めするのが従者の役割ではないのか」

 本来ならば、ボエヌなどは口を利くこともできない大貴族たちが、次々に、サレへの非難を彼に浴びせた。

 それをボエヌが黙って聞き流していたところ、摂政が立ち上がり、同座している者たちに向かって、ため息交じりで言った。

「とにかく、届いてしまったものはしかたがない。仮にも、スラザーラ家の当主からの上書だ。いちおう、お上に見せてくる。すぐにすむだろうから、みなはここで待っておれ」

 そう摂政が言い残して場から消えると、大貴族たちは微笑を浮かべあった。

 もはや危篤に近い状態の国主が公女に会う訳もなく、いちおう、上書を見せた体にして、ボエヌを追い払う算段だと彼らは考えたのだろう。


 その後、なかなか摂政が戻って来ないので、大貴族たちの顔に不安の色が見えはじめた頃、摂政が評議の場へ姿をあらわした。

 無表情の摂政は、上座まで来たが、椅子には坐ろうとせず、立ったまま、まるで独り言のように、ボエヌへ向かって告げた。

「お会いになるそうだ。……なるべく早くとのご下命を受けたので、今から取次役と相談して、早々に日取りを決めろ」

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