通過儀礼(二)

 晩秋十二月。

 北遠州のゼルベルチ・エンドラのもとに人質として送られていた刑部監殿[トオドジエ・コルネイア]が解放され、都にこっそりと戻って来た。西征失敗の大きな要因であったエンドラの約定破りはみやこびとの強い反感を買ったが、その矛先が約定締結を担った刑部監殿にも向かっていたからだ。


 エンドラが西南州との不戦の約定を破り、ストゥーバレ街道で老執政[スザレ・マウロ]と一戦交えることにしたとき、人質の刑部監殿は殺されたものと都人は思っていたが、そのようなことはなく、西征失敗後、莫大な身の代金次第では都に返すと、遠北州が薔薇園[執政府]に交渉を持ちかけて来た。


 その話を聞かされた老執政は、使者の首を斬らんばかりに怒り、交渉の余地がないことを即座に断言した。

 それを受けて、刑部監殿の身柄は宙に浮くか、エンドラに殺されるかと考えられたが、薔薇園に無断で、サレが公女[ハランシスク・スラザーラ]の名を使い、言い値通りに身の代金を肩代わりし、その身柄を都に取り戻した(※1)。


 サレの勝手な振る舞いに対して、薔薇園より、老執政の名で詰問の使者が訪れたが、「何分、人の命が懸かっていることであったから、急がざるを得なかった」と、サレは弁明した。それでも使者が食い下がって来たので、サレは公女の名を出して追い払った。


 その後、話を聞いた近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]、東州公[エレーニ・ゴレアーナ]、ラウザドのオルベルタ[・ローレイル]が、見舞金と称して、それぞれ身の代金の六分の一ずつを、刑部監殿に渡した。



※1 その身柄を都に取り戻した

 この身の代金は、エンドラが反マウロ派の謀略に協力した見返りであり、西征前から取り決められていたことだったのだろう。


※2 それぞれ身の代金の六分の一ずつを刑部監殿に渡した

 ブランクーレ、ゴレアーナ、ローレイルが、反マウロ派の謀略に加担していたのかは不明。単純に、コルネイアへ恩を売ろうとしたものと考える史家が多勢。

 なお、マウロおよびモウリシア・カストは、第二次西征時の反マウロ派の謀略について、その事実を知らぬまま世を去った可能性がある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る