第10話
(※スーザン視点)
「ねえ、どういうことなの!? 家のお金を黙って持ち出そうとするなんて、どうしてそんなことをしたの!?」
私は、目の前にいるジェフの問い詰めた。
自分で見たものが信じられなかった。
眠っていると何か物音がしたので確認すると、ジェフが、貯めていた家のお金をバックに詰めていたのだ。
そして、今のこの状況である。
「いや、それは……」
ジェフは目を合わせようとしない。
この期に及んで、まだ言い逃れできると思っているのだろうか。
「隠していることを、すべて話して! 何のために、お金を持ち出そうとしたの!?」
「……実は、ポーカーで必要だったんだ。それで、しかたなく……」
「しかたなくなんてないでしょう!? ポーカー!? あなた、そんな賭け事をやっていたの!? よくも私に隠れてそんな……」
「安い給料しかくれないのに、朝から晩まで仕事をしないといけない。そんな毎日に耐えられなかったんだ。それに、勝てば一気に大金持ちになれるから、君も喜んでくれるかと……」
「そんなことされても、私は嬉しくないわ! 私はただ……、あなたと一緒にいられたら、それでいいの。大金なんて、どうでもいいのよ。……だから、これまでのように真面目に働いてちょうだい。そうすれば、今日のことは許すわ」
「……実は、最近はポーカーばかりしていて、仕事には行ってないんだ。何日も無断欠勤しているから、きっとクビになるだろう。いや、もうなっているかもしれない」
「なんですって!? あなた、いったい何を考えているの!?」
せっかく、真面目に働けば許そうと思ったのに、あまりの衝撃に、気が狂いそうになっていた。
「いや、本当にすまない。こんなことになるとは思わなかったんだ。すぐに大勝ちして、大金を手に入れられると思っていた。それなのに、なかなか勝てなくて、貯金も底を尽きて、だから、家の金を持ち出そうとしたんだ。本当にすまなかった!」
「すまなかったじゃないわよ! さらっと貯金が底を尽きたなんて言ったけど、それ、どういうことなの!? 今まで何回もポーカーで負けていたってこと!?」
「本当にすまなかった! どこかで金を借りようとしたんだが、僕にはそれができないんだ。借金まみれでブラックリストに載っているから。だから、家のお金に手を着けるしかなかったんだ。本当にすまなかった!」
「ふざけないで! 借金まみれでブラックリストに載っている!? そんな秘密があったのに、私に黙っていたの!?」
なんなのよ、それ。
完璧だと思っていた彼から、どんどんぼろが出てくる。
まさか、こんなとんでもない秘密を抱えていたなんて。
もし知っていたら、あの時エルシーから彼を奪ったりなんてしなかったのに……。
まさか、エルシーはこうなることを知っていて、わざと私に婚約者を奪われたの?
今更だが、思い当たる節がある。
ジェフを奪われた時、彼女はうつむいて震えていた。
悲しくて震えているのかとあの時は思っていたけど、まさか、嬉しくて震えていたの?
ああ、なんてことなの……。
すべて彼女の手のひらの上だったなんて……。
「おい、ジェフ! 家にいるのはわかっている! 今すぐ出てこい!」
家の外から、怒鳴り声が聞こえた。
その声を聞いて、ジェフは震え始めた。
「まさか、この街にいることが、奴らにバレたのか?」
怒鳴り声を無視していると、家の扉を壊す音がした。
堅気とは思えない男たちが入ってきた。
私は、恐怖で動けなかった。
それは、ジェフも同じだった。
「ようやく見つけたぞ。さて、お前にはどんなことをしてでも、金を用意してもらうぞ。誰も引き受けないような仕事をしてもらうか、あるいは臓器でも売って金に換えるか、まあ、なんでもいい。連れて行くぞ」
ジェフはあっさりと男たちに連行されそうになっていた。
いい気味である。
私を騙したのだから、当然の報いだ。
「離してくれ! スーザン、頼む! 助けてくれ! 僕たちは、将来を誓い合った婚約者だろう!?」
「……婚約者?」
ジェフを連れて行こうと家を出ていた男が、こちらを振り向いた。
私は、一気に震え上がった。
「ただの他人だと思っていたが、婚約者といのなら、話は別だ。お前にも責任がある。金を用意してもらうぞ。もちろん、どんな手を使ってもな……」
私は男に捕まってしまった。
「そんな! 離して! 私は、関係ないでしょう!? どうして私まで!」
「関係なくはない。恨むんなら、こいつと婚約した自分を恨むんだな」
……そんなの、あんまりだ。
私は後悔していた。
エルシーからジェフを奪ったことを。
こんなことになるくらいなら、婚約者を奪うなんてこと、しなければよかったわ……。
幼馴染が私の婚約者を奪いました。確かに、奪いたくなるほど彼は完璧です。『ある一点』を除いては…… 下柳 @szmr
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