第9話

 (※ジェフ視点)


「くそっ! 今日もうまくいかなかった……」


 僕はとぼとぼと帰路についていた。

 仕事がうまくいかなかったわけではない。

 というか、仕事にはここ数日行っていない。

 もちろん、そのことはスーザンには秘密だ。


 バレたら、愛想を尽かされてしまうかもしれない。

 でも、僕が大勝ちして大金を手に入れることができれば、彼女もきっと喜んでくれるだろう。

 そう、僕がスーザンに隠れて密かに解禁したことは、ポーカーである。


 もちろん、賭けをしているので、大金が動くことになる。

 残念ながら、ここ数日は負けっぱなしだが、これは長い間やっていなかったブランクのせいだ。

 これくらいの負けなら、すぐに取り返せる。


 しかし、今日の負けで、僕とスーザンの給料から少しずつ貯金していたお金も、底をついてしまった。

 こうなったら、どこかで金を借りるか?

 いや、それはできない。

 心理的に無理なのではない。

 僕はお金を借りることができないのだ。


 だって、僕は……。


 いや、今はそんなことより、お金をどう工面するかだ。

 そうだ!

 少しだが、家に現金がいくらかある。

 生活費や、急に現金が必要になった時のためにとってあるものだ。

 それに手を着けるしかないか……。


 スーザンは、許してくれるだろうか。

 怒って僕のことを見限るだろうか。

 いや、それはないか。

 だって、僕たちは愛し合っているのだから。

 きっと、スーザンもわかってくれる。


 それに、何倍にもして返すのだから、一時的に借りるくらい、特に問題もないだろう……。


     *


「ついに、ジェフがポーカーを始めたみたいよ」


「へえ、そうなんだ。まあ、時間の問題だと思っていたよ。それで、戦績の方はどうなの?」


「家に帰っているところを見かけたけれど、あの様子だと、ずっと負けっぱなしね」


「うわぁ。それじゃあ、すぐに貯金も尽きるんじゃない?」


「そうね。スーザンにあの事がバレるのも、時間の問題よ。いつバレてもおかしくない状況ね」


「いよいよ、破滅が近づいて来たね。あ、そうそう、ポーカーといえば、最近、家族で集まってポーカーやっていないね」


「そうねぇ。久しぶりに集まってやりたいわね。……なに笑っているの?」


「いや、ポーカーのことで思い出しちゃって……。ここだけの話、お母さんって、いい手が揃うと、耳たぶを触る癖があるんだ。だから、その時は勝負しなければいいんだよ」


「へえ、そうなんだ。まあ、あんたもブラフの時、鼻先を触る癖があるけれどね」


「え……、嘘……。まったく気付いてなかった。だから、姉さんに僕のブラフは通用しなかったのか……」

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