第5話

 (※ジェフ視点)


 昨日は驚いた。

 いや、昨日だけではない。

 最近スーザンが、僕のことを疑っている。

 彼女の口ぶりからして、僕が浮気をしていると疑っているみたいだ。


 しかし、僕は浮気なんてしていない。

 それは、神に誓って本当だ。

 僕はスーザンのことを、心から愛している。

 しかし、彼女に何も隠し事がないのかと言われれば、そうでもない。


 僕はスーザンに、ある秘密を隠している。

 いや、スーザンだけではない。

 エルシーにも隠していた。

 この秘密は、絶対にバレてはいけないものだ。

 バレたらいったい、どうなるか……。


 幸い、エルシーにもバレなかったし、今のところスーザンにもバレていない。

 そもそも、隠し事があることにすら気付いていないだろう。

 僕は自分でいうのもなんだが、完璧な人間を目指して努力してきた。

 そして、その努力は形となって表れていると思う。

 そんな僕にまさか、隠し事があるなんて誰も思わないだろう。


「いつになったら、隠し事をしなくても済むのだろう……」


 僕の隠し事、それは、ある問題を抱えていることだ。

 簡単に解決できるものではない。

 一刻も早く解決したいところだが、残念ながら今のところ解決の目処はない。


 僕だって本当は、隠し事なんてしたくない。

 しかし、誰にでも言いたくないことの一つや二つはあるだろう。

 たとえ相手が愛する人であっても、いや、愛しているからこそ、言いにくいこともあるのだ。

 その相手が僕の秘密を知った時の顔を想像するだけで、とても言い出せなくなる。


 毎日、秘密がバレないかと心配するのは、精神的にかなり疲れる。


 昨日はスーザンも納得していたけど、またいつ僕のことを疑うかわからない。

 まあ、浮気のことを疑われるのは、べつにかまわない。

 僕は本当に浮気なんてしていないのだから、身の潔白を証明できる。

 彼女を愛しているというのは、嘘偽りのないことなのだ。

 だからスーザンにどう思われようが、べつにかまわない。

 問題は、スーザンがどう行動するかである。


 問い質されるのは、べつにかまわない。

 あまり気分のいいものではないが、それで僕の秘密がバレるわけではないからだ。

 しかし、浮気を疑って尾行なんてされたら、それはとても困る。

 そんなことをされれば、僕の秘密がいずれ彼女にバレてしまうからだ。


 なんだか嫌な予感がして、振り返った。

 スーザンがあとをつけてきているか心配だったのだ。

 周囲も見回してみた。

 しかし、どこにも彼女らしき人物は見当たらない。

 僕は安心して、大きく息を吐いた。


 スーザンが変装して、あとをつけてきていることも知らずに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る