第6場 美琴ちゃんの家で大騒ぎ
俺たちはまず職員室に行き、美琴ちゃんが出勤していないか確認したが、全く姿形が見当たらない。通りかかった教師に聞いてみるも、今日は出勤していないという。俺たちは嫌な予感のするままに病院に電話をしてみた。だが、入院患者の個人情報は教えられない、と美琴ちゃんが入院しているか否かの情報は教えて貰えなかった。こうなったら、病院に突撃するしかない。
俺たちは再びバスに乗り、美琴ちゃんが入院していた病院に乗り込んだ。だが、広い病院で何処に入院しているかもわからない。俺たちは広い病棟を一つ一つ探して回ることにした。九人の男子高校生と二人の男子中学生が慌ただしく病棟内を走り回ったことで、病院の中は大騒ぎになった。とうとう俺たちは病院の関係者に捕まって、こっぴどく叱られる羽目になった。
だが、病院で騒ぎを起こしたのは俺たちだけではなかった。俺たちが病棟のスタッフに説教を受けている時、バタバタと慌ただしい足音が聞こえ、
「みことー!」
という青地の叫び声が病棟内に響き渡った。説教を受ける俺たちの中に青地が加わったのは、それから間もなくのことだった。
結局、俺たちは事情を説明し、平身低頭謝って、やっと解放して貰った。どうやら、病院に入院してはいないらしい。俺たちは少しだけ安堵して胸を撫で下ろした。だが、美琴ちゃんは一体何処に行ってしまったのだろう? 取り敢えず、今日は家に帰され、明日から辛い治療が開始されたりでもするのだろうか。嫌な想像が再び俺たちの心の中を過る。
「仕方ありませんね。天上先生の家に行きましょう」
青地がそう決意を固めた様子で呟いた。
「え? 青地先生、美琴ちゃんの家、知っているんですか?」
俺が尋ねると、青地は
「当たり前でしょう。私たちはお互いのことを誰よりも理解している仲ですから」
と言うと、俺たちと一緒にバスに乗り込んだ。普段俺たちが足を踏み入れたこともない地域へと突き進むバスに揺られながら、俺たちの胸の不安はどんどん大きなものへとなっていった。もし、美琴ちゃんの家でとんでもない結果を訊かされる羽目になったら……。それなら一層、このまま美琴ちゃんの家に行かずにずっとバスに乗っていたいような気もして来る。だが、そんなことではダメだ。しっかりしなくては。俺は不安に押しつぶされそうになる自分を必死で鼓舞し続けていた。
「次で降りますよ」
青地はそう言うと、降車ボタンを押す。
『次、止まります』
という無機質な女声アナウンスが流れる。俺たちは緊張感に身体を固くした。
バスを降り、青地についてどんどん先へ進む。
「ここです」
青地が指さす先には何の変哲もないアパートが建っている。俺たちは心の準備を整え、美琴ちゃんの住む部屋の階まで上り、部屋の前まで辿り着いた。青地は一瞬の
「もしかして、あの病院じゃ手に負えないからって、もっと大きな大学病院に送られたとか……」
航平がとんでもないことを言い出す。青地の顔にこれまでにない焦りの色が表れた。
「美琴、入るぞ!」
青地はそう叫ぶと、ドアノブを回した。すると、不用心なことに、ドアノブはクルリと回り、俺たちは部屋の中へとなだれ込んだ。見ると、部屋の中は真っ暗だ。青地は部屋の電気をつけると、中にずかずか入って行く。俺たちも後に続く。だが、居間にもキッチンにも美琴ちゃんの姿は見当たらない。
「ここに居なければ、もう……」
青地は震える声でそう言うと、まだ見ていない最後の部屋のドアノブに手をかけた。そうっと中へ足音を忍ばせて入る。青地が電気をパチッとつけると、ベッドの上で
「美琴!」
「美琴ちゃん!」
青地と俺たちが同時に叫んだ。すると、美琴ちゃんはパッと目を開くと、俺たちの姿を見つけ、次の瞬間、あの病室でやったように「キャー!」という耳をつんざくような悲鳴を上げた。
それからが大変だった。怪しい男とその男に連れられた男子高校生たちが、一人暮らしの若い女性の部屋の前で大騒ぎをし、挙げ句の果てにその部屋の中から断末魔のような悲鳴が上がったことで、近所の人が警察に通報したのだった。パトカーがサイレンを鳴らして到着し、俺たちは病院のスタッフに引き続き、今度は警官にこっぴどく叱られる羽目になった。
騒ぎがひと段落すると、美琴ちゃんはカンカンに怒って、俺たちを並んで正座させた。
「大体、レディーの部屋に十人以上の男が勝手に上がり込むなんて、どういうつもりなの?」
「すみません……」
「警察は来るし、近所の人にはあらぬ噂を立てられるし、この部屋に住めなくなったら、鼓哲。あんた、責任を取なさいよ!」
「そ、そんなぁ……」
「そんなぁ、じゃないわよ! なっさけない顔をしているわね。それに、あんたたちまで何をしにここまで来たのよ。わたしの家を嗅ぎ回って、一体何をするつもりだったの?」
青地の次は俺たちに怒りの矛先が向く。
「すみません……」
「ったく、いい加減にしてよね」
美琴ちゃんは仁王立ちになって怒り続けている。
「美琴……」
「何よ、鼓哲。その呼び方、生徒の前ではやめてっていつも言っているでしょう」
「僕は心配だったんだ。今日は君の検査結果が出る日だろう? それなのに、電話にも出なければ、学校にも来ていない。病院にもいなかった。僕がどれだけ君のことを心配したことか」
「はぁ? あんた、聖暁学園や病院にまで行ったの? バッカじゃないの!?」
「ああ、バッカだよ、僕は。でも、ずっと君のことを心配していたんだよ。君に何かあったらどうしようと思って。それで、どうだったんだ、検査の結果は?」
「検査? そんなもの、何の異常もないわよ。ただの良性のポリープでした」
と美琴ちゃんは事もなげに言った。こっちの心配も知らないで。その瞬間、俺たちも青地も今までの緊張感の糸が切れてその場にへなへなと倒れ伏してしまった。
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