第十二幕 いざ全国の舞台へ!運命の中部大会
第1場 百合丘学園との合同稽古
文化祭が終わると、とうとう全国大会進出を掛けた最後にして最大の関門、中部大会の本番まで一か月弱だ。今まで聖暁学園演劇部は県内一の演劇強豪校として、他を寄せ付けない実力を見せつけて来た。だが、次戦はそうはいかない。中部地方の各県から、有力な演劇強豪校が一堂に会し、その中で雌雄を決するのだ。特に、愛知県の代表校は強敵だ。流石は日本三大都市圏の一つ、名古屋を抱える大きな県だけあって、その県大会を勝ち抜いて来る学校のレベルも段違いで高い。部員も多く、大掛かりなセットを組み、俺たちの県ではなかなか見かけないような華やかな舞台が繰り広げられるそうだ。聖暁学園演劇部が今まで一度も超えたことのない中部大会の壁を、今年の俺たち演劇部員たちは超えていこうとしているのだ。
だが、今の俺たち聖暁学園演劇部は今までで最高の状態にある。一度は崩壊しかけたこの演劇部もすっかり部員同士の絆も取り戻し、いや、以前よりも更に強固なものとなり、最大の壁に向かって突き進む心は同じだ。更に、美琴ちゃんは正式に入部したかーきと奏多とれぴこと漣のために、ちょっとしたモブキャラを台本に加えてくれた。アキやハルの通う学校のクラスメートの役だ。
「文化祭の芝居で二人とも頑張っていたからね。大分芝居も様になっていたし、折角だから出てみたいでしょ?」
美琴ちゃんの提案に、手を取り合って喜ぶ奏多と漣は、更に部活のボルテージはマックスに上がる。
連日、夜まで体育館で熱の入った稽古が続く。俺たちには休み時間も関係ない。昼休みには全員で集まって自主練をするのだ。そんな俺たちのやる気に引っ張られるように、美琴ちゃんの指導にもより一層熱が入る。俺も航平も、台本は付箋や書き込みで既にいっぱいになっている。もう紙質もヨレヨレのボロボロだ。でも、これは俺たちがこれまで頑張って来た勲章のようなものだ。俺はボロボロになった台本を眺めては一人でニヤニヤしては航平に揶揄われるのだった。
そんな熱のこもった稽古の日々が続いていたある日、美琴ちゃんがこんな提案をした。
「今度、百合丘の皆をうちに呼んで合同稽古を行おうと思うんだけど、どう思う? 百合丘学園はわたしたちのライバルではあるんだけど、同じ県の仲間という側面もあるのよね。鼓哲とも話をつけてあるから、次の土日は一緒に稽古をしようと思うの。互いの上演を見て、それぞれの学校にダメ出しをし合うの。もちろん、いい部分を見つけて褒め合うというのも大事なことよね。どうしてもここで稽古をしていると、身内同士の評価で見えて来ない欠点や改善点がある。でも、そこで第三者の目が入ることで、また新しい視点が入るという算段よ。どう? 面白くない?」
面白そうに決まっているじゃないか! 俺たちは二つ返事で百合丘学園演劇部を聖暁学園演劇部の活動場所、この体育館のステージに招くことにした。
早速、週末にゾロゾロと俺たち聖暁学園演劇部を訪れた百合丘学園演劇部の面々は、聖暁学園の男子生徒たちから注目の的だった。特に、今年の大会で主役を演じる葉菜ちゃんと莉奈ちゃんの美少女コンビは、男子生徒の鼻の下を伸ばさせるのに十分だった。
「そんなにこっちをジロジロ見るんじゃありません!」
その度に青地は癇癪を起したような怒鳴り声を上げ、百合丘の可憐な花たちに近付こうとする不埒な連中を追い払うのだった。体育館に百合丘学園演劇部のメンバー全員が入ると、青地は他の男子生徒が入って来れないように、入口を勝手に施錠した。練習場所を追い出されたバスケ部やバレー部からはそれこそブーイングの嵐だ。だが、そんな運動部の連中をまるでゴミを見るかの如く蔑んだ目で青地は眺め、
「イヤですねぇ。これだから男子校の生徒は野蛮というか粗野というか。全く油断も隙もない!」
と叫んだ。いや、バスケ部やバレー部を追い出す青地もなかなかに野蛮で粗野だと思うのだが……。
兎に角、この男だらけの聖暁学園に百合丘学園から姫君たちがご到着されたのだ。一気に体育館の中が華やかになる。だが、俺が気になっていたのは、そんな華やかな雰囲気ではない。葉菜ちゃんと莉奈ちゃんの様子だ。葉菜ちゃんは莉奈ちゃんの告白を部長の助言に従って断ったのだろうか。俺が二人を探すと、二人は目も合わせようとせず、互いに背中を向け合っている。告白を断ったにせよ、まだ断っていないにせよ、あまり二人の関係は良好に進んでいるとは言い難いようだ。
だが、そんな個人の事情などお構いなしに中部大会の本番はやって来る。
「それじゃあ、それぞれの学校でまずは通しでやってみましょう。そこで気になったことがあれば、どんどんフィードバックの時間を設けるので出してください。出された意見をディスカッションして、細かい修正を更につけ加えていきましょう。午前中にわたしたち聖暁、午後に百合丘という順番でやっていきます」
美琴ちゃんの指示で、俺たちから芝居を開始する。緞帳まで下げて、本番さながらの通し稽古だ。俺たちの間には、まるで本番を迎えたかのような緊張感が漂う。しかも今回は普段の劇場での上演と違い、客席が明るい。観客となっている百合丘学園演劇部の部員たちの反応がつぶさに見て取れる分、緊張感も増す。そのせいか、変に観客席を意識した俺たちはどうもいつもの調子が出なかった。
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