第6場 ドロッドロ!昼ドラ顔負けな演劇部の人間関係
俺と漣との微妙な距離感は、次第に特進クラスの連中にもそれとなく気付かれる所となった。信輝はそんな俺たちの様子に興味津々といった様子で、
「何? 男を巡ってバトッたりした訳?」
と詮索して来た。少し俺との関係は改善されたとはいえ、信輝のこういうガサツにずかずかと人の事情に踏み込んで来る所はやっぱり苦手だ。それに、信輝は未だに演劇部がゲイの巣窟であると思っているらしい。いや、実際そうなっている訳だが。それにしたって、こんな風に半笑いで探りを入れられて気分がいい訳がない。信輝は男同士の恋愛を何やら面白可笑しい笑えるものだと思っているらしい。
一方、漣と西園寺さんが話しているのを見て複雑な表情を浮かべていた奏多の眉間の皺はより一層深くなっていった。
「紡、東崎と何かあったのか?」
奏多にそう尋ねられた俺は、漣の逆鱗に触れ、航平に叱られた鬱憤から全てを洗いざらい話して聞かせた。
「これ、俺が全部悪いのか? 俺が、何処でどんな間違いを犯したんだ? 怒られてばかりで嫌になる」
「そうか」
奏多は一言、そうポツリと呟いただけで、俺を慰めてはくれなかった。
そんな中、兼好さんが何やら随分思い詰めた様子で俺に相談を持ち掛けて来た。
「なぁ、つむつむ。東崎と微妙な関係になっているの、もしかしてこうちゃんや悠希と関係がある?」
兼好さんにまで俺と漣がギクシャクしているのがバレていたのか。もう、全部が全部駄々洩れだな……。
「まぁ、そうですね……。何て言ったらいいか……」
俺の返答は歯切れが悪い。
「いや、いいんだよ。別に隠す必要ないから。東崎が演劇部に応援に来てから、何か東崎のこうちゃんに向ける視線っていうのかな。何かこうちゃんに向けるものが他の人とは違ったんだよ。だから、もしかしたら東崎はこうちゃんのことが好きだったんじゃないかなって思って」
「はい。実は、そうだったみたいなんです……」
「かぁ! やっぱりなぁ! この部活、そんな部員ばかり集まって来るよな。応援スタッフまでそうなるとは想定外だったわ! ……て、そんなことはどうでもいいんだよ。それより、俺、この前見ちゃったんだよ。悠希が東崎と一緒にいる所。悠希、東崎のすぐそばに座って、頭を撫でたりしていた。悠希、東崎のこと絶対好きでしょ。こうちゃんへの実らぬ恋に傷ついているのを利用して近付いたんじゃないかって、俺、ピンと来たんだよ」
兼好さんまであの場面を見ていたのか。だが、どうも兼好さんは何やら誤解しているらしい。西園寺さんが漣を狙っているなんて、そんなことある訳ないだろ。だが、兼好さんは俺にツッコむ隙すら与えてはくれない。一方的に耳元で騒ぎ立てた。
「どうしよう。まさか、悠希のやつ、男が好きだったなんてな。俺、この状況を喜ぶべきだと思う? いや、でもなぁ。いくら悠希が男を好きだといっても、東崎と付き合ったら全然意味ねぇじゃん。でも、ここで後輩の東崎から恋人の悠希を奪い取るなんて、そんな鬼畜なこと、俺には出来ねえよ。いや、だけどなぁ。やっぱりこのまま悠希を他の男に取られるのは我慢ならねえ!」
いつの間にか、漣が西園寺さんと付き合ったことにまでなっているし。兼好さんの思い込みもここまで来ると相当だよ。
「多分、東崎は西園寺さんに興味はないと思うんですが……」
俺がそれとなく、二人が恋人関係になることはないと匂わせようとすると、兼好さんは、
「それ、本当か? 何処情報? 誰から聞いたの?」
と捲し立てた。
「いや、それは俺の見た感想ですけど……」
「つむつむみたいな超鈍感男子くんの見た感想なんて信じられる訳ないじゃん!」
兼好さんも言ってくれるね。西園寺さんの想いに気付きもしていない人にここまで言われると、流石に先輩相手でもどつきたくなるよ。
「このままじゃ不味いな。何とかしないと。もし東崎に今、そんな気がないとしても、このまま悠希に迫られ続けたらコロッといっちゃう可能性だってあるしな」
兼好さんはブツブツ呟きながら落ち着きなく行ったり来たりしている。だが、いきなり立ち止まると、手をパンッと大きな音を立てて叩いた。
「そうだ! いいこと思いついた! 俺、悠希に直接俺の気持ちを言うのはまだ勇気がないけど、あの方法なら何とかいけるかもしれない」
「何なんですか、あの方法っていうのは?」
「それは教えない! 俺の中だけの秘密だから。それに、これから綿密に計画を立てないといけないし。機密情報が洩れたら困るからね」
俺に相談に乗ってくれとそっちから持ち掛けておいて、随分な扱いだな。もういいや。兼好さんには付き合っていられないよ。勝手に自分で心配して、勝手に自分で納得して、勝手に自分で解決法を考え出しているのだ。俺を呼び出した意味が何処にあるのだろう。
俺と航平と西園寺さんと兼好さんと漣。三角関係ならぬ、実に五角関係というものが今、俺たち演劇部の中で生じていた。いつの間に、聖暁学園演劇部はこんな昼ドラ顔負けの愛憎渦巻くドロドロ展開になっているのだろう。まさか、兼好さん、芝居の稽古中に
「この泥棒猫!」
などと漣に向かって叫ぶつもりじゃないだろうな。芝居の稽古だとか何だとか適当な言い訳をして。もっと高校の部活っていうのは、スポコン漫画で描かれるようなさっぱり爽やかなものじゃなかったのかよ。
兎にも角にも複雑に絡み合った想いは、そのまま文化祭の本番へと縺れ合ったまま突入していくのだった。
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