第8場 ちょっぴりエッチな体育祭
だが、俺が奏多の告白を断ったからなのか、俺が航平といちゃつく姿を見せつけたからなのか、奏多はそれ以上俺を求めて来ることはなかった。俺はホッとするような、淋しいような複雑な感情を覚えた。でも、これでいいんだ。奏多が俺を諦めれば、俺は航平だけを見ていける。俺にとって好きな相手は航平のみ。そうすれば、全てが丸く収まる。
体育祭の本番も
それだけじゃない。美琴ちゃんのトレーニングメニューによって、なかなかのプロポーションを獲得していた俺は、惜しげもなく自らの肉体を晒した。秋とはいえ、まだ夏のようなキツイ陽射しが俺の肌を小麦色に染めていく。別に上半身裸になることを強要されない競技でも、俺は短パン一枚で参加した。というのも、男子校のノリらしく、多くの生徒たちもそうだったというのもあるのだが。でも、自分の肉体に自信が出て来ると、誰かに無駄に見せつけたくなるものらしい。
「つむつむったら絶好調ね」
体育祭という場には似つかわしくないような真っ白でオシャレな日傘をさして優雅に教え子たちの競技を鑑賞する美琴ちゃんが、俺をそう揶揄った。部活が暫く休みなためか、美琴ちゃんにこうやって会うのも久しぶりな気がする。
「あ、はい。ありがとうございます」
「もう、すっかりいい身体つきになっちゃって。もう、つむつむはうちの演劇部のスターになること確定ね。あ、そうそう。怪我して本番に出れません、なんてことになったら大変だから、競技を頑張るのもそこそこにね」
体育祭で出場する競技に手を抜け、なんて、聖暁学園の教師としては何とも有り得ない発言なのだが、これもいつもの美琴ちゃん節で逆に俺は安心する。
「はい。じゃあ、そこそこで頑張ります」
そうは言うものの、競技が始まるとすっかりアドレナリン全開で、全力でぶつかっていく俺であった。
体育祭が無事に終了し、皆が片付けを始めていた頃、俺と航平は校庭裏で密会していた。所属する団の異なる俺たちは、体育祭の間、ずっと別行動だったから、ほぼ一日ぶりの再会だ。俺の小麦色に焼け、土埃で汚れた俺の身体を、航平は顔を赤らめながら指先でツンツンつついた。
「今日の紡、めっちゃエロいね。紡の裸の身体、土で汚れている感じも、すごく興奮する。このまま、紡をめちゃくちゃに汚してやりたい」
航平のやつ、そんな目で俺の身体を見ていたのかよ。この変態野郎。そんなことを言われると、俺も何だか興奮が収まらなくなる。
「じゃあ、今夜、いっぱい俺を汚してくれよ」
「紡のエッチ!」
俺たちはギュッと抱き立って激しくキスを交わした。
俺の小麦色に日焼けした身体は、演劇部でも大好評だった。
「つむつむのその日に焼けた感じ、スポーツ万能なアキっぽくていいね」
「ちょうどいい感じに焼けていて最高だし、これからも日焼けサロンにでも通ってみれば?」
「日焼けサロンいい! つむつむ、いい感じにチャラくなるね」
チャラいかどうかは置いておいて、あんなに嫌がっていた体育祭も終わってみると案外演劇部での芝居にもいい影響をもたらしたらしい。今日からは再び部活だ。十月の地区大会まで一か月を切っている。俺と航平の初舞台にして、全国大会への切符をかけた三か月に渡る戦いまでラストスパートだ。
「そういえば、照明や音響の応援もそろそろ探さないといけないですよね。暗転中の大道具の移動を手伝ってくれる裏方さんも頼まないと」
俺も案外、自分の芝居以外、作品の上演全般に関して気が回るようになって来た。
「照明と音響なら、去年も手伝ってくれた俺の友達にもう頼んでいるよ」
流石は部長。その辺は抜かりない。
「でも、まだ照明音響以外のスタッフまでは手が回っていないんだよね。つむつむとこうちゃんの友達で頼めそうな人、いない?」
そうだな。俺も普通クラスにすっかり馴染んで友達も何人か出来たし、そのうちの何人かに当たってみるか。俺がそう航平に提案しようとすると、航平は何やら考え事をしているようで、全く話を聞いていない。
「おい、航平。何ボーッとしているんだよ」
俺が航平の背中をポンッと叩くと、航平は「わぁ!」と驚いて飛びずさった。
「もう、脅かさないでよ」
「いや、だって航平ずっとボケッとしていたからさ」
「で、何の用?」
「裏方のスタッフが不足しているんだって。俺たちの友達で誰か声掛けてみない?」
「あ、うん。いいね、それ」
航平の反応は何処かぎこちない。何か、航平は俺に隠していることでもあるんじゃないのか。俺の直観がそう言っている。だが、それをここで問い詰めるべきだろうか? いや、下手に問い詰めた所で、意外に頭の回転の速い航平のこと。簡単にはぐらかされてしまいそうだ。だが、何を隠しているのか、やはり気になる。俺がどうしたものかとあれこれ考えを巡らせていると、そこに美琴ちゃんが合流した。
「お待たせ―! 裏方のスタッフなら、今日一人確保しました」
演劇部員たちから歓声と拍手が上がる。何ともまぁ、仕事が早い。流石、美琴ちゃんだ。スタッフ集めに俺や航平の出番はなさそうだ。
「明日以降の稽古に、照明さんや音響さんも合わせて参加してもらうことになったので、そのつもりでね。今日は二週間体育祭で稽古が空いてしまったので、セリフや指示した芝居の細かいニュアンスをもう一度確認するために、一度通してやってみましょう」
「はい!」
部員たちの元気な返事が響く。皆、再び集まって芝居ができるこの日を心待ちにしていたのだ。久しぶりの芝居に、俺の心は高鳴っていた。航平のことは少し気になるが、今は自分の芝居に集中することにした。
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