第7場 『再会』
七月に入って早々、美琴ちゃんが目を輝かせながら、ついに完成した台本を演劇部員に配った。美琴ちゃん曰く、「過去最高傑作」らしい。俺も航平も先輩部員たちも全員がこの日を待ち望んでいた。美琴ちゃんだけでなく、部員たちの喜びもひとしおだ。
作品名は『再会』に決まった。
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俺演じるアキは、しがない一介の男子高校生。ただ一点父子家庭であるということを除いては。アキの母親は数年前に他界し、今は部長演じる父親と二人で暮らしている。アキは母親がいない淋しさとコンプレックスを抱えていたが、外では何事もないかのように明るく振舞い、イケメンで女子生徒にもモテモテの学校の人気者だ。スポーツ万能で頭もいい。
そんなアキが高校で出会った一人の同級生が航平演じるハルだった。ハルに出会ったアキは思い出す。それは、アキが小学生だった頃、一番仲の良かった友人がハルだったのだ。そして、ハルはアキの初恋の相手でもあった。だが、その想いを告げることはなく、ハルは小学校の途中で、親の仕事の都合で転校していった。それから、アキはハルのことを忘れようと、中学校に入学すると彼女を作る。だが、その心にぽっかり空いた穴をその彼女で埋めることはできずにいた。
そんなハルとのまさかの再会を喜ぶアキ。だが、小学生の頃から少し内向的であったハルは、数年の時を経て旧友であるはずのアキにも固く心を閉ざしていた。一向にアキの方を振り向きもしないハルのことが気になり、事あるごとにハルに構おうとするアキ。だが、ハルはそんなアキを疎ましく思い、二人は喧嘩をする。ハルは叫ぶ。
「家族と仲良く暮らしていて、何も悩みのない幸せいっぱいのアキに、僕のことなんてわかる訳ないよ!」
そのセリフは、母親のいないアキのコンプレックスをえぐるには十分なセリフだった。思わずハルを売り言葉に買い言葉で
それからというもの、アキはハルと気まずいまま学校生活を送る。そんなある日、クラスメートの誰とも関わろうとしないハルを、兼好さん演じるクラスの男子生徒ナツが揶揄っているいる現場にアキは遭遇する。ナツはハルにおちゃらけた様子で話しかける。
「お前、親が二人共もうこの世にいないんだってな。だからそんなに暗くて陰気な顔をいつもしているのか? もっと元気出せよ、ほら。笑えって」
その瞬間、ハルは立ち上がるとナツに殴りかかる。慌てて二人を止めに入るアキだったが、ハルは教室を走り去ってしまう。母親がいないコンプレックスに悩まされていたはずのアキだったが、まさかハルが両親とも死に別れていたという事実にショックを受けるアキ。そんなアキにいきなりナツが迫る。
「俺はお前が好きだ。それなのに、お前はハルばかり見て、俺に見向きもしてくれない。だけど、これでハルはもう学校に出て来ることもないだろ。これからは俺のことだけ見てくれよ」
アキはまさかの告白に唖然とする。それと同時に、アキを振り向かせるためにハルを傷つけたナツを許せず、ナツの行為を
何とか傷ついたハルを励まそうとするアキだったが、ハルは学校へ姿を見せなくなってしまう。どうにかハルを元気付けたいアキだが、喧嘩をした手前、なかなか一歩が踏み出せない。そんなアキは相談を親友であった西園寺さん演じるフユに持ちかけるが、「父親だけでも生きているアキに、両親を失ったハルを理解できるはずもない」と冷たく突き放されてしまう。アキ自身もフユのその言葉に深く傷ついてしまう。
実は、フユはナツに恋をしており、ナツがアキに想いを寄せていることをずっと苦々しく思っていたのであった。だが、アキを傷つけたフユをナツは許さない。フユを詰問するナツだったが、フユに、アキを追い込んだのはお前じゃないかと逆に反論されてしまう。二人の想いがぶつかり合う。フユはボソリと「お前のことが好きだったんだ」と告げ、ナツを残して立ち去ってしまう。茫然とするナツ。
一方、アキはフユに言われた言葉が心に突き刺さり、自信を喪失していた。だが、同級生であるハルとは毎日のように顔を合わせる。嫌でもハルを意識してしまうアキ。ハルもハルでアキを妙に意識しているようで、アキが着替えの際に上半身裸になった姿を見て顔を赤らめる。アキがそんなハルの様子に気が付き、声をかけようとするも、ハルは教室を飛び出してしまう。教室に取り残されたアキ。アキはハルと両想いであったことを初めて自覚した。だが、ハルを追いかけたいのに、その一歩がなかなか踏み出せない。
「行って来い」
そんなアキにそっと声をかけたのは、ナツとフユだった。二人は仲睦まじい姿で、寄り添っている。二人に背中を押されたアキは、ハルの後を追って教室を飛び出す。
アキは河川敷に一人佇むハルの姿を認める。
「ハル!」
アキはハルに向かって叫ぶ。逃げ出そうとするハルをアキは迷わず追いかけ、腕をつかむ。アキを振りほどこうとするハルを思わずアキは抱きしめる。
「俺はお前のことを全部は理解できない。でも、俺も母さんがいないんだ。だから、少しはハルの気持ちが理解できるはずだ」
ハルははっとして自分より背の高いアキを見上げる。アキの事情も知らず、アキに酷いことを言ったと後悔し、泣きながら謝るハルをアキはそっと抱きしめる。
「ハル、お前のことが好きだ」
アキはハルに告白する。ハルは涙を流しながら頷く。
「僕もアキのことが好きだったよ」
ハルも幼少期の頃からアキに淡い恋心を抱いていたことを告白する。二人は幼い頃から互いを想い合って来たことが判明する。互いの愛を確認し合った二人は固い抱擁を交わし、熱いキスをするのだった。
―おわり―
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