第2話 出会いと葛藤
夢を見た。
子供の頃の夢だ。
夢には意味があると聞いたことがある。
悪い夢はなにかの前兆とか願望だったりと様々だ。
「うっ...]
目を覚ました。
体中が痛い。
俺は寝たまま周りを見渡す。
見慣れない部屋、目の前に浴槽がある。
(ここどこだ?、ってか袋叩きにされたっけ...)
その時、部屋のドアが開く音がした。
「あっ!、おーい店長あの子起きたよー」
女性の声だ。しかも若い。
「大丈夫〜?」
今度は男の声。
「...ここは?」
助けてもらった礼の前に聞いてしまった。
「ここは俺の店〜」
軽い返答だった。
そう答えた男は綺麗な顔立ちでモデルのようだ。
目を引く白髪。しかし若い。
「昨日の夜はかなりやられてたね〜、俺が通らなかったら死んでたかもよ〜?」
顔に似合わないことを言う。
「助けてもらってありがとうございます」
俺は体が痛いのを我慢して立ち上がり頭を下げた。
「まだ無理しないほうがいいよ〜、体痛いでしょ〜?」
そう言って俺の胸を軽く叩いた。
「痛ってぇ!」
たまらず腰をつく。
その男は笑って謝った。
「悪い悪い(笑)、まぁゆっくりしていきな〜」
そう言い残すとどっかにいってしまった。
状況が飲み込めないので部屋に残った女性に聞く。
「あの人は?」
「あの人はこのお店の店長兼オーナーの風間(カザマ)さんだよ」
この女性もモデルのような顔立ちでスタイルが抜群だ。
よく見るとこの女性は際どい格好をしていて目のやり場に困る。
「お店?」
「ここソープだから」
そう言いながらタバコに火をつける。
「まだ開店前だからゆっくりしてていいよ。でも私に手出すなら別料金だよ?、そんな元気はないよね(笑)」
すっきりするくらい豪快に笑う。
「えっと昨日俺になにがあったか聞いてます?」
「詳しくは聞いてない。道端でボコられてた子連れてきたから寝かしといてって頼まれただけだからさ」
記憶を探る。
確かに若者グループと揉めたんだっけ...
「あっ!、もう開店するから部屋出て!、事務所に風間さんいるからちゃんとお礼言ってから帰りなね〜」
そう言って部屋を出されてしまった。
(事務所に行って風間さんにお礼言わなくちゃ...ってか場所聞いてない!)
店内をうろつく。
明らかに不審者だ。
「きゃー!、不審者!」
声のするほうに顔を向けると触れただけで壊れそうな華奢な子がいた。
「いや!、俺は昨日ここに運ばれてきた者なんですが...」
慌てて取り繕う。
「不審者〜?」
すると風間さんが近くの部屋から顔を出す。
「あぁ〜もう開店だからカレンに追い出された訳ね(笑)」
風間さんはにこにこしている。
不自然なくらいに。
「とりあえず事務所で話そうか〜」
そう言って迎えいれてくれた。
事務所には風間さんともう一人。
黙々とパソコンに向かっている。
「こいつは土屋(ツチヤ)〜、うちのネット担当〜」
そう言いながら土屋さんの頭をポンポンしている。
「...気が散るので止めてもらえますか...」
「見た通りこいつ無愛想だからさ〜、気にしないで〜」
(気にしないでって言われてもな...)
どう対応していいかわからない。
苦笑いするしかない。
「そういや名前聞いてなかったね〜」
「あっ、俺は福住 竜介って言います。この度は助けていただきありがとうございました」
「福住君ね〜、俺は風間 秀次(カザマ シュウジ)、カレンから聞いてるかわからないけどこの店の店長兼オーナーだからよろしくね〜」
そういって握手する。
「あの...なんで俺を助けてくれたんですか?」
「答えはすぐにわかると思うよ〜」
なにを言ってるかわからなかった。
その時だった。
「終わったぞ」
ドスの効いた声。
間違いない昨日の声だ。
「ご苦労さん〜」
なにがなんだか訳がわからない。
「なにが終わったんですか?」
「悪者退治ってやつかな〜、昨日の夜、福住君をやってた連中だけどARROWS(アローズ)ってここら辺の半グレなんだよね〜」
半グレ...その言葉の意味に背筋が凍る。
「でも大丈夫だから〜、そこの沖田がやっつけてくれたから〜」
風間さんが指した先に目を移す。
小柄な人だった。
「力ないように見えるでしょ〜、見た目によらず力強いんだよね〜、そうそう昨日だけど福住君担いだの沖田(オキタ)だからお礼言っときなよ〜」
「うるせーよ、お前も無事なら良かったわ」
そう言ってソファに腰を落とす。
「あのありがとうございました。重かったですよね?」
「お前なんて重くねーよ、もっと飯食え」
言葉の節々に優しさを感じる。
「やっつけたってどうゆうことですか?」
「実を言うと俺達っていうかこの辺の商売やってる人達なんだけどARROWSには手を焼いてたんだよね〜、でも実害ないと対策のしようもないからどうしようか考えてる時に福住君が現れた訳よ〜」
少し考える。
「それって俺を利用したってことですか?」
「人聞き悪い言い方しないでよ〜、まぁ結果的にそうなってしまったのは認めるけどさ〜」
こんな会話でも風間さんはにこにこしている。
「ってか風間、今回の件でこいつのこと俺達の身内って話で通してきたけどどうすんだ?」
ソファに横になりながら沖田さんが言う。
「そこで提案なんだけどさ〜、福住君さ、うちで働かない〜?」
「どういう訳ですか?」
咄嗟に聞いてしまった。
「さっき沖田も言ったけど福住君は俺のとこの一員ってことになってるんだよね〜、だからうちとしても福住君に来てもらわないと困る訳よ〜」
なるほど。
俺は邪魔な半グレ集団を潰すために利用されてたと悟った。
「いや、でもここってソープですよね?、そんなとこで働くなんて俺には...」
「それってソープとか風俗を軽蔑してるってこと?」
風間さんから笑顔が消えた。
目が戦闘態勢だ。
「職業に貴賎なしって言葉知ってる?」
「えっ?」
突然の問いに思考が止まる。
「役に立たない仕事はないとか働いて報酬を受け取るのにどんな仕事も貴いとかって意味なんだけどさ、うちで働いてる姫達は進んでこの道を選んだ訳じゃないんだよ?」
風間さんの言葉が重くのしかかる。
確かに女性が体を売るとはかなりの覚悟がいる。
かなりなんてものじゃないだろう。
男にはわからない世界だ。
「少し考えさせてもらっていいですか?」
「いいよ〜、でもこっちも長く待つ気はないよ〜?、期日は明日までって条件飲めれば帰っていいよ〜」
笑顔と口調が戻った。
ただ言葉の重みは先ほどとは違う。
「わかりました」
「それじゃ明日またうちに来てね〜」
俺は頭を下げ店を後にした。
(どうすりゃいいんだよ...)
もうこのことしかなかった。
逃げればどこまでも追ってくるだろうし断れば最悪の事態しか見えない。
(職業に貴賎なしって意味わかんねーよ、正当化したいだけだろ...)
考えても仕方ない。
明日までに結論を出さなければならない。
どんな結果が待っていようと。
そして俺が出す結論が後に人生を大きく左右することになるとはまだ誰も知る由もない...
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