職業に貴賎なし〜どんな仕事にも意味はある〜

@syaca

第1話 絶望と救い

職業に貴賎なし


一般的な解釈として、どのような仕事にも社会に必要とされているという意味である。

つまり、働くこと、職務を全うすること、労働して稼ぐことは誰であろうと等しく貴いことである。

人を職業によって差別してはならない。例え人に胸を張って言えない職業だとしても...


2020年1月

世界は未曾有の感染症との戦いの火蓋が切られた。

それは日本も例外ではなかった...


感染が広まるにつれて結果、経済は冷え込み職を無くした者、仕事にありつけない者、労働時間の減少に伴う収入ダウンする者、そんな酷い現実が生まれてしまった...


-神奈川県 横浜市-


夜の山下公園、ただ海を眺めていた。

今の気持ちをどう表したらいいかわからない。

絶望しかない。


俺の名は福住 竜介(フクズミ リュウスケ)、26歳、たった今バイトをクビになった。


きっかけは些細な事だった。

店長に嫌味を言われカッとなり殴ってしまったのだ...


「はぁ...今度のバイトこそ続けられそうだったのになんでやっちゃたかな...」


かれこれ2時間、ため息しか出ない。


昔からこうだ。


両親は俺の高校卒業と同時に失った。

小さいが車の部品を作る工場を両親は営んでいた。

父は部品を作り、母は経理をしていた。


母は俺の高校の卒業式の日に浮気相手と出ていった。

父はショックから工場で首を吊った。


そんな状況でも働かなければ生きていけない。


最初は学生からバイトしていた大手居酒屋チェーンの社員として就職した。

しかし社員ともなるとバイトと違い社風だの売り上げだのしがらみが多かった。


俺はがむしゃらに働いた。

その結果、店長に疎まれバイトには馬鹿にされ俺の居場所は店のどこにもなかった。


次からは工場や土建、保険の営業など転々とした。

どれもが自分が原因なのか職場に自分の居場所がなくなったのが原因だ。


それからはバイトで毎日を食いつなぐのがやっとの状態だ...


「とりあえずどっかで飯食って帰るか...」


こんな最悪な状況でも腹は減る。

俺は近くの安い食堂に足を向けた。


「いらっしゃいませー」


今はそんな元気な接客が嫌な気持ちだ。


「唐揚げ定食を1つ」


俺はそんな嫌な気持ちを払拭するために席につきながら頼んだ。

そして定食がくると同時に何日も食べてないが如くかきこんだ。


しかし気になることが1つあった。

それは隣の席の若者のグループの会話だった。


「マジであいつうぜーよな!」


酔っ払っているのか声高々に仲間と話していた。

仲間も同調する様に相槌を打つ。


「あいつとか1回痛い目みせないとダメじゃね?」

「キツイお灸でも据えてやるか(笑)」


笑いながら話しているが今の俺には嫌悪感しかない。

無視すればいいのに俺はつい呟いてしまった。


「うるせーな」


その瞬間、店内は凍りついた。


「おっさんなんか文句あるわけ?」

「表出ろや!」


罵声が飛ぶ。

店に迷惑かける訳にはいかない。

俺はため息をつきながらその若者グループと外に出た。


「それで?、なにかある?」


人気の無い路地裏。

相手は3人。

本能でヤバい状況だと理解した。


「いや、他のお客さんいるんだから酔っ払っていたとしても最低限のマナーは...」


その直後、いきなり殴られた。


「だからなに?」


それからは袋叩きだ。


(人ってこんなあっけなく死ぬんだな、ってか走馬灯って本当にあるんだ)


そんな今の状況とは裏腹に呑気な事を考えていた。


「めんどくさいからこれで頭潰しとく?」


おぼろげな視界の中はっきりと確認できた。

鉄パイプだ。


俺もさすがに覚悟した。


「なに面白いことやってんの?」


誰か来た。


「あ?」


若者グループは一斉の声のするほうに顔を向けた。

直後に鈍い音が聞こえた。


「ぐはぁ...」


状況から考えると誰か殴られたらしい。

立て続けに鈍い音が響く。


「お前ら、やんちゃするのは構わないが場所考えろよ?」


ドスの効いた声。


(まさか本職か?)


「すいませんでした...」


そう言い残して若者グループは去っていった。


「大丈夫〜?」


別な声。

今度はやけに明るい口調だ。


「とりあえず治療しないとだから店に運ぼうか〜」


そう言ったと同時に俺は担がれた。


(何者だ?、店ってなんだ?)


そう思いながら俺は意識を失ってしまった...

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