4-02『最底辺の転生者』


 いつものように宿で眠る2匹を僕はぼーっとみている。


 思ったより簡単に出来てしまったからなのか? 本当に不思議なことに嬉しいなんて気持ちが全然ない。

 むしろ今感じていることといえば、この2匹との距離だ。


 一緒に居る理由を無くした途端、驚く程に別のなにかに見える。と言うよりも触れてはいけないと思う程に神聖な、そんな不思議なものに見えてしまう。


 魔王と勇者の魂が入ってたから、この2匹といてもなんとも思わなかったのかな? 穢れた魂と聖なる神獣の魂、2つが入ってたおかげだったんだなーと自己完結する。


「……みぅ、みぃ、久しぶりに楽しいって思える生活をありがとうな」

 眠る2匹を前にポツリと零した言葉、最底辺の僕にとってこの2匹との生活はそれ程までに楽しかったんだと思うな。


 まぁ結局、こんな光に触れても変わらなかった腐った僕の心は流石だなーと思うけどな。


「『転移』」


 懐かしきはじまりの森、そこにある巨大すぎて全く隠せない魔力の真横へ移動してきた。


 そこに居た魔力の主は寝てたというのに、突然の侵入者にも関わらず転んだまま落ち着いた様子で聞いてくる。

「誰じゃ?」相変わらず幼い可愛らしい声と年寄りみたいな言葉使いがあってないなと思う。


「約束を果たしたから戻ってきたんだよ」

 僕の声を聞いた途端にそれは飛び起きる。


 すたんっ! と布団から飛び出し横へ着地する瞬間に僕は言う。


「寝てるんだ、静かにしてやってくれ……親だろ?」


 すると音もなく僕の横へ降りたのは、ねこのこ様である。


「……どういう事じゃ……約束を果たしたとは」


 荒らげそうになる言葉を必死に抑えてる様子のねこのこ様


「だから約束は約束だろ、みぅとみぃを救うって……この2人にはもう勇者の魂も魔王の魂も無い事は保証する、だから明日……こいつらが目を覚ましたら謝ってやれ」


 ふと横を見るとボロボロと涙を流す親となったねこのこ様の姿がある。


「わしは……わしは、この子らにどのように接したら良いのじゃ」


「んなの知らないよ、僕はこいつらの親じゃないんだからな?けど……みぅもみぃも過去を気にするようなみみっちい性格じゃないのは流石に見てたんだし知ってるだろ?」


「……ああ。そうじゃ、毎日見ておった……強く逞しく、わしの娘には勿体ない子達」


「なら、その優しさに甘えたらいいんじゃねぇの?親なんてそんなもんだろ?自分勝手で子供のことなんて分かってないくせに好き勝手して、けどいざ子供が正しければごめんねで済ませてしまう、それが親だし、それを許してしまうのが子供だ……けどな? 次……こいつらを諦めたら、みぅとみぃが許しても僕が許さないからな? だからこれからは親子として当然の愛を育んでやれ!!それが親として当然の務めだ」


 ねこのこ様はああ、そうじゃな、そうじゃ。そう呟き、けれどみぅとみぃに触れる事を恐れるようにただ寝顔に魅入っていた。


「ふぅ、ようやくこれで僕も子守りから抜け出せるな……じゃあ確かに2人に助けられ育てられた恩は返したからな? 僕は行くことにするよ……じゃあな」


「……ああ。この子達を殺してくれなどと言った事、ずっと後悔しておった……お主には返せない程の恩をわしは確かに受け取った、何かあればいつでも言いに来い。この命に変えて……あだ!?」


 とりあえず僕はねこのこ様を殴っといた。


「これでその恩とやらはチャラだ。命に変える?ふざけんなそんな安っぽい命じゃねぇだろ……みぅとみぃの為だけに使え『転移!!』」


 僕は分かったよ。

 なんで嬉しくなかったのか、2人が救われるということは2人との別れを意味してたからだ。



 ☆☆☆☆☆



「……はぁ」

 神獣の森が見える遠く離れた山の上、ため息をこぼした。


「あの二人に関わって泣かされたのは2度目だな」

 僕は多分最底辺の転生者だ。なんせこの世界に興味無いし、この世界を滅ぼす魔王の復活に協力したからな。


「……さて」

 あいつらはもう大丈夫だろう。なので僕は最後の仕事にでることにする。


「『転移』」


 向かったのは先程居た、最果ての研究所。


「『……全部吹き飛べ!!!』」

 僕の全魔力を持って、魔王、勇者、魔王の配下、大陸ごと全てを吹き飛ばした。

 流石にこれから親子が楽しく生きていくってのに、世界がどんどん滅びていったんじゃ落ち着いて居られないだろうしな。


 ほぼ全ての魔力を消費した僕、契約を破った事により罰が執行される。


 何も無い真っ白な空間、どこまでも通ったような……懐かしいとさえ感じるのは、転生する前に神とやらに出会った場所そっくりだからだろうな。


 あの時は転生なんてしなくていいや。とか思ったが……今思えば、みぃとみぅ2匹と出会えたから僕的には満足いく転生だったと思うよ。

 この真っ白な空間は1000年開かれることは無い。

 人間の寿命は長老で100年ぐらいだから、僕の一生はここで終える。


 まぁ、たった2人だけだが……幸せにできたし、僕は最底辺から最底ぐらいには格上げされただろうな。

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