最終回

4-01『不思議な想い』


 大会も終わりこれからはまた冒険者としての日常に戻る。


 あと3ヶ月程の期間ではあるが、それまではしっかりとこの2人の親代わりとして育ててあげよう。

 そう思っていた矢先のことである。


 ポケットに入れてある。通信用の魔道具が鳴った。


 今は2人が眠り、僕が楽しむ為に出ている夜中。

 ポケットから魔道具を取りだし応答する。


 魔道具越しに聞こえてくる声、紛れもなくあの老人である。


「なにかあったか?」

 この老人が連絡を寄越すことと言えば、必ず魂による案件だと思い尋ねた、きっと何か良くない事が起きて遅れるといった連絡だろうと考えたのだが、どうやら違ったようだ。


「魂を抜き取る装置が完成したんじゃよ」

 思わず、「え?」と声に出てしまった。

 完成?って完成したってことだよな? 頭の中で復唱し老人の言う言葉の意味を再確認する僕である。


 3ヶ月がたった1週間やそこらで? なんて思うが契約の事もあるし嘘をつくことは無い筈なのでこれは真実である。


 だと言うのにおかしい。感情が何も湧いてこない。

 僕は2匹に対してそこまで興味がなかったのか?と、思う程に高揚する気持ちもなければ、喜びなんてものも無い。


 きっとまだ成功してないから、そのせいだな。なんて自分の気持ちを一旦誤魔化した。


「どこに行けばいい?」


 老人に場所を訪ねると「わしのいる場所にはこれるかの?」と聞かれたので「当然だ」と返した。


 なにせ、この老人に僕は自分の魔力を忍ばせておいたからな。

 常に居所は把握してるし、あの日以降この老人が村を数件襲っていた事も知っている。

 そしてそのせいで沢山の人が死んだのも知っているが、この老人は魔王の復活を何より優先するはずだというのも知っていたから僕は何もしないし何も言わなかった。


 見殺しだ最低だと言われようが知ったことではない。


 僕は僕の周りにしか興味がなくて、そしてその周りにおいてもみぅとみぃ、この2匹にしか興味が無いのだからな。


 とりあえず今はそんな事どうでもいいな。この目で確かめないと結局のところ信用が出来ないのだからさ。


「『転移』」老人につけた自身の魔力へ向かい転移した。


 ☆☆☆☆☆



 最果ての研究所へようこそ、と老人に言われる。


「……これか?」

 老人の言葉を無視して僕はそこにあった、この世界では見た事がない機械の様なものに指をさして訪ねた。

「ああ。これが魔王様の魔力を抽出できる、この世でたった一つの機械じゃよ」その言葉にさしずめの僕も納得である。


 その理由に足りうるだけの、魔力が見える僕でさえ見たことも無いような流れの魔力が機械の中に渦巻いているからだ。


「信用の為に1つ実験を致しましょう」

 きっと僕がいざとなって、魔王の器が心配になる恐れがあるだろうと、老人はそれを用意していたのだろう。


 大きな機会には2つの入れ物がある。


 そこへ、死んだ男と、生きた男を用意し放り込む。


 魔力が見える僕だからこそ、その死んだ男が確実に死んでる事は見てわかる。


 けれど機械の中に放り込まれた途端、不思議なことが起きる。



 うわぁぁぁ!!!!!と大声を上げだしたんだ。

 慌てて逃げる男、実験を見せる為だけに用意したからか老人はそれにはもう興味もなく逃げてゆくのを無視し僕に言う。


「どうじゃろうか?これで信用に足るかどうか」


 これを見て信用するなという方が無理がある。僕はこくりと頷いた。


「……ならば、魔王様の入れ物を用意しよう」


 こうして、2人を連れてきた僕、眠る2人から呆気なく魔王と勇者の魂は抜くことが出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る