第2話 夏生の優しさ

 高揚した頬。心地良い熱。

 肌と肌の触れる箇所が全て愛おしくて。


 私はこの日を、一生後悔するだなんて、

 この時は思いもしなかった。


 私は夢を見ることなく、意識を浮かせた。

 目の前には白い天井。消毒液の臭い。


 そして、


「佐名」


 愛おしい彼がいた。


「大丈夫か?」


「……うん、大丈夫」


「貧血だって、先生が」


「うん」


「……これ、どうしたの」


「……うん」


 夏生くんは優しい。

 あの手帳を見て、責めるでもなく、問い質すでもなく。

 優しく、私の目を見て、私の手を握って、そう聞いた。


「……今、何週目なの」


「……5週、目」


「……そう、か。……あの時、の所為だよな……?」


 そう。私は頷く。

 私たちには、心当たりがあった。

 夏生くんの言う『あの時』、私たちは体を交わした。

 その1回が、今の状況を生み出しているのだ。


 分かっていたとはいえ、正直、怖い。

 大好きな彼に否定されそうで、怖い。


「ごめん。早く、分かってれば」


 どうして夏生くんが謝るの?

 私が全部悪いんだよ。私が、してもいいって言ったから。

 責任が持てないのに、いいよって言ったから。

 だから、夏生くんは悪くないのに。


「俺の責任も、あるから。一人で悩むなよ、佐名」


 彼の優しさが、痛いほど、伝わった。


「……ごめ、なさ……。ごめんなさい……っ」


 嗚咽おえつ混じりに声を押し殺す。

 夏生くんは私の頭を自分の胸に収めた。

 それにより私の涙腺は崩壊し、彼の胸元が搾れるくらいに濡らした。

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