④回想
二人でご飯を食べに行くときはだいたい場所は決まっている。というか、そんなに場所もないので、そもそもの話、限られている。さっと食べてさっと出るなら、大手牛丼チェーン店に行き、少し落ち着いて食べるなら有名ファミレスチェーン店に行く。今日は、お互いゆっくり話したいこともあるということで、ファミレスに行くことにした。車が通るような道は大概、歩道が存在せず、路側帯が異常なほど狭いので、ほぼ歩行者しか通らない地元の道を通って向かう。
「成人式、なんかあっさりだったな」
「ああ、そうだな。俺も何かもう少しあるのかと思ってた」
今日の成人式を振り返りながら、意外なほどあっさりしていたことに少し笑えてきた。一生に一度のイベントだからと身構えていたことに、今更ながら気付かされた。
「おっ、この道懐かしいな。久しぶりに通ったわ」
彼が、いきなり大声を上げたので体が脊髄反射的に揺れた。
「び、っくりした……ほんとだ、懐かしい」
一気に時間が戻ったかのように、小学生時代の記憶が蘇る。この道を通って小学校に通ったものだ。さらに真っ直ぐ進むと、いつも待ち合わせをしていた十字路があるはずだ。以前は畑が続いていた気がするが、新しめの家が連なっており驚いた。
「たしか、ここで待ち合わせしてたっけ」
「そうそう。ふみの方が遅かったから、よく一人で待ちぼうけしてたわ」
懐かしの十字路にやってきたところで、彼が懐かしむような声色で言い、少し上を見上げていた。ここには、道に大きくはみ出した大木があったはずだ。危ないとは言われていたので、遅かれ早かれ伐採されるだろうとは思っていたけれど。それでも、一つの思い出がもう既にないことが、少し悲しかった。彼も同じことを思っていて、そこを見ているのなら嬉しいな。
「あの木、なくなってるね」
言葉が一つ零れ落ちた。今の自分には、この言葉出す他にしようがない。
「そうだなあ。ちょっと寂しいな」
「んね」
少しだけ俺と目を合わせた彼は、何を思っているのだろうか。分からないけれど、寂しいという思いを抱いてくれたのは、嬉しかった。
それから、小学校時代の他愛もない思い出話をしながら道を歩き、いつものファミレスに到着した。いい運動になったのか、どうやらお腹はかなり空いているらしかった。
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