③親友
特に大きな盛り上がりもなく成人式は幕を閉じた。成人式自体が形骸化して、同窓会の前座に成り果てていると言えなくもない。
「庄太、この後時間ある?あるならどっか食べ行こうぜ」
「ああ……ちょっと確認してみる」
文明を待たせて、俺は母に電話した。この後、家族とご飯行くとかなんとか、そんな話をしていたので確認しておきたかった。とは言え、必須でもなさそうだったら、ゴリ押ししてでも史明とご飯を行こうと思う。
『もしもし。どうしたの?』
「ちょっと確認したいことあって。この後、友だちとご飯行きたいんだけど、大丈夫だよね?」
『もしかして史明くんと?』
俺が母に言う友だちの8割くらいは史明であり、母もそれは承知の上らしい。
「うん、そうだよ。一緒に食べに行こうって話になって」
『それなら仕方ないね。正月は会う時間なかったもんね』
ふふっと軽く優しく笑った後、失礼のないようにねと母は釘をさした。
「わかった、ありがとう母さん」
電話を切り、史明の元に戻った。何やら、数人の男女のグループと話している様子だった。
話が終わるまで待とうと、少し離れた距離でスマホをいじりながら待つことにした。
史明の交友関係は広い方だから、俺と行くよりも他の人と行く方が良いのではないかと疑問に思う。俺としては嬉しいけど、彼はどうなんだろうか。そんな、やや暗い気持ちを抱きながら、Twitterのタイムラインを眺めていた。
「庄太、ごめん。待たせた」
「……んあ、うん、全然。ふみは、その行かなくていいの?」
思考を巡りすぎて、史明の話が終わったことにも、こちらに来ていることにも気付かなかった。変な声を上げてしまったものの、思考を元に戻して、気になっていたことを聞いた。
「え?……ああ、あいつらね。俺は庄太と行くから、行かなくていいかな」
さも当たり前のことのように言う彼の目は、真っ直ぐで眩しかった。
「……ありがとう。早く飯食べ行こう」
「あれ、庄太は大丈夫だったの?」
「うん、確認したら大丈夫だったよ」
ただの昼食の時間だけれど、他の誰でもなく俺と一緒にいることを選んでくれたのが嬉しい。そして、それに応えられるのが嬉しい。彼にとっては、何気ない日常の一部かもしれないけれど、俺にとっては大切なひと時である。
会場周辺には、集合写真を撮っていたり、この後の予定について話していたり、成人式という記念日に花を咲かせている人がまだ多くいた。俺たちは、彼らを横目に会場を後にした。
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