②再会
『次は……所前、次は……所前。お降りのお客様は降車ボタンでお知らせください』
いつの間にか、目的のバス停までもうすぐらしい。座席テーブルに広げていたものを鞄にしまい、コートを羽織って、降車ボタンを押した。ちらっとスマホを確認すると、彼からのメッセージが来ていた。確認しようとしたところでちょうど到着らしい。急いでスマホを後ろポケットに入れ鞄を持ち、駆け足でバスを降りた。
確認し損なった彼からのメッセージを手早く確認した。どうやら、もう着いたとのこと。慌てて左腕に着けた時計を見ると、待ち合わせ時刻20分前だった。安堵しつつ、バス停に着いたこととこれから向かうことを伝えた。バス停から徒歩10分ほどの場所が待ち合わせ場所であり、成人式の会場である。早く会いたい気持ちと待たせたくない気持ちが絡み合い、足取りは自然と不自然なほどに早くなっていた。傍から見たら成人式をめちゃくちゃ楽しみにしているように見えるかもしれない。
すでに多くの新成人が来ており、会場となっているホールは既に開いており、受付も始まっている。記念写真を撮る人たちや久しぶりの再会で話しが弾んでいる人たちなどがいる。その中にスマホを眺めて立っている彼の姿が見えた。
「ふみ。ごめん、待った?」
駆け寄って声をかける。
「うん、待ったー。あとでジュースな」
冗談を言ってからかうところは相変わらずである。笑顔の彼はいつも輝いていて、それでいて居心地がいい。
「仕方ないな。何飲む?」
変わらない彼のノリにいつものノリで返してみた。自然と笑みがこぼれて、外は寒いはずなのに暖かい感じがした。彼の好きな飲み物は、冬だったらココアだったはず。
「いや、冗談だって。まあでも喉乾いたし、そこの自販でなんか買おうぜ」
近くの自販機で、俺はホットレモンを、彼はココアを買った。手袋をしても冷えていた手に、熱すぎる気もする容器の熱がじんわりと沁みた。カイロみたく両手で包んで持っていたら、飲む前に冷めてしまいそうである。
「そろそろ中入らね?さみい」
「そうだね。早く入ろう」
彼とともに会場入り口に向かい受付を済ませた。ホールの真ん中辺りの座席に座り一息ついた。バスで座りっぱなしとは言え、長距離での移動は疲れる。軽く伸びをし、大きく息を吐く。
「お疲れ様」
「マジ疲れたー。癒して」
冗談、だけど本気な気持ちを言ってみた。疲れたのは本当、その疲れを癒してほしいのも本当。この本当の気持ちを、冗談として伝えられるのが唯一の特権だと思っている。
「んー、これ終わった後、どっか行く?」
彼は少し考え込んでから、楽しそうな笑みを浮かべながら言った。珍しく冗談なのか本気なのか分からない。彼の真意は分からないが、下手な言動をして余計な勘繰りを入れられるのは御免である。
「約束とか無いの?」
「無いな。強いて言うなら、タイムカプセル掘り起こすみたいなイベント……庄太も参加するよな?」
そういえば、そんなイベントの知らせも成人式の知らせの少し後に来ていた。出身中学校では毎年恒例らしく、20歳の自分へ手紙を書かされた。手紙の内容……何を書いたか忘れてしまったな。
「うん、まあ一応。手紙は受け取っておかないとね。色んな意味で」
ああ、と彼は苦笑いを浮かべ、確かに、と大袈裟に数度頷いていた。彼は20歳の自分へどんな内容の手紙を書いたのだろうか。自分のものは見せたくないくせに、他人のものは見たくなる。ひどく狡い人間だなと心の中で自嘲した。
「庄太はどんなこと書いた?」
「正直覚えてない。まあ、碌な内容ではないだろうな」
当時は、今よりも感情の渦が激しかった気がする。そんな中で書いた手紙だし、史明が期待するような面白い内容でもなければ、ちゃんとした内容でもないと思う。
「そんな時化たこと言わなくても良いんじゃない?中学生の庄太は、そんなテキトーなやつじゃなかったよ」
だから後で見せて、と茶化すように言った。彼のこういうところが大好きだ。いつだって輝いていて、その輝きのお裾分けをくれる。
「そうだな」
さっき買ったホットレモンを飲んだ。甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、温かさがじんわりと身体を温めた。
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