20歳の僕へ

一宮 伊作

①帰郷

冷たい風が身体を包み、容赦なく身体の温もりを奪っていく。出発予定時刻10分前に到着したため、少し雲のかかった空を見上げて時間が経つのを待っていた。今日予約した高速バスは、夏休み帰省した時と同じバスで、その時は予定通り来たので、今日も予定通り来るだろう。寒波が到来するということで寒さ対策をしてきたが、少々舐めていたらしく凍てつく風が身体に突き刺さる。向こうに着いてそのまま成人式に参加するので、スーツの上にコートを羽織って、手袋を着けて準備万端……ではなかったようだ。マフラーをしてくるべきだったらしい。

「はあ……」

溜め息をしたら白い息となり、眼鏡を曇らせた。慌てて眼鏡を外して、ポケットから取り出したハンカチで拭き取る。眼鏡をかけ直して何回か瞬きをした。そのついでにバスが来る方向を眺めていたら、それと思しきバスが見えた。荷物を確認し、立ち上がる。


乗客は疎らで、これで営業できているのか不安になる。予約しておいた指定席である後ろから3番目の右の窓側に座る。帰省するときはいつもこの座席と決めている。後ろポケットからスマートフォンを取り出し、LINEのアプリを開く。母からのメッセージから1件、大学の友人から1件、あと、高校からの友人から1件、それと、彼から1件来ていた。


火照った胸を落ち着かせ、メッセージを一通り確認する。母からは成人式後の予定について、大学と高校の友人からは、成人式に関しての他愛もない話だった。そして、彼からは、今日の成人式一緒に参加しようというものだった。彼とは夏休みに会って以来だ。年末年始は俺が帰省しなかったので、会うことはなかった。


はやる気持ちを抑えて、バスで向かっていること、待ち合わせ場所と時間についてメッセージを送った。送ってすぐに読んでくれたらしく、すぐに彼から返信がきた。待ち合わせ場所と時間についての確認をし、ただ一言、了解とだけ送った。あんまりにも楽しみだということを悟られるのは恥ずかしい。小中高ともにした親友としての立場は失いたくない。


流れる景色、といっても高速道路を走るバスから見える景色はさほど変化もないが、バスに乗る前にかかっていた雲はどこかへ行ってしまったらしく、青空が広がっていた。昼間はコートいらなさそうだなとぼんやり思いつつ、物思いにふけった。車内の暖房が効きすぎているのか暑さを感じ、まだ着ていたコートを慌てて脱いだ。到着まで2時間ほどあるので、今週末提出予定の課題に取り組むことにした。

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