第248話 作戦開始


 やがて作戦がまとまると、みんなが慌ただしく動き出していく。


 そんな私も念話を繋いで、聖理愛に状況を説明しているところだった。


『――って感じだ。あとで合図を送るから、もう少し待っててくれ』

『うん、あいつもここに来るみたいだから気をつけてね』


 相変わらず拘束されているようだが、ふたりはまだ無事のようだ。聖理愛は口調こそ戻っていないが、かなり落ち着きを取り戻している。


『希望の様子はどうなんだ?』

『もう平気、だいぶ落ち着いたみたい』


 お姉ちゃんが傍にいるから大丈夫、そんなことを言ってるらしい。ふたりの救出はもちろんのこと、魔王のスキルアップも阻止しなければならない。なんとしても今日中に決着をつけたかった――。



◇◇◇


「ドラゴ、もう一度確認をしてみるよ。ここで止まってくれ」

「うむ、心得た」


 いよいよ作戦を決行、そんな私はドラゴと一緒に遥か上空を飛んでいた。お互いの体をロープで縛り、帝国の街を見下ろしている。


 すぐ隣には、ドリーに抱えられた桜も同行。そして街の郊外に目を向けると、草原地帯にも仲間たちの姿が――。あそこには樹里と一緒にナナシ軍が待機している。

 


『樹里、ここで何mだ?』

『620mです。万が一のためにその高度を維持してください』


 向こうはスマホのズーム機能でこちらを見ているはず。樹里の能力にある『測量』により、正確な高さを指示されているところだった。


 さすがにこれだけの高さがあると、人を判別することはできない。それでも建物くらいなら、肉眼でも見分けがついている。用意してきたスマホを使うまでもなかった。


『みんな、今から結界を張るぞ』


 そう宣言して、聖理愛たちのいる館に結界を張る。そしてふたりを村人から追放、ナナシ村のすぐ近くへと飛ばした。


『啓介さん、ふたりを確保したよ! 居住の許可もおわってる!』

『よし、春香は予定どおりに。聖理愛はもうひと踏ん張りしてくれ』

『助けてくれてありがとう。私はもう平気、すぐに動くわ』


 彼女たちのスキルは封印を解かれている。やはり魔王の範囲外にさえ出てしまえば元に戻る仕組みのようだ。まずは最優先事項を達成、すぐさま次の行動に移った――。



 張っていた結界をいったん解除。そして追放場所をナナシ軍のいる郊外に再設定する。これは街の住民たちを保護するためだ。


『設定は終わった。杏子たちのすぐ西側だ。範囲を広くしてあるから、巻き込まれないように気をつけろよ』

『西側ね、こっちはいつでもいけるわ!』


 聖理愛が杏子たちと合流、私はその間に魔王の居場所を確認する。


 と、どうやら移動を始めたらしい。


 居間にいる椿曰く、聖理愛たちがいた館へと向かっているそうだ。元領主館に行くとなれば、必ず広い庭園を通ることになる。条件的にも絶好の機会と言えよう。


「桜、千里眼はコピー出来たか?」  

「はい、既に魔王を捉えています」

「わかった。噴水のところへ来たタイミングで合図をくれ」


 桜に譲渡してある模倣能力で聖理愛の『千里眼』をコピー、これで魔王の正確な位置を確認できるようになった。本来は私の役目だったが……午前中アイドルになってしまい、今日はもう使えないんだ。


(まあ、みんなへの指揮で効果を発揮している可能性も……ないか)


 それは兎も角として、


 庭園にある噴水なら肉眼でも確認できている。あとは然るべきタイミングで結界を張るだけとなった。都合が良いことに、魔王はひとりだけで行動しているようだ。



 ――それから待つこと5分、


 ついに魔王が到着。椿の合図で街全体に結界を展開する。もちろん噴水周りだけはくり抜いて。


「……上手くいったか?」

「しっかり捕らえています! そのまま固定してください!」


 すぐさま結界を固定して桜からの続報を待つ。これでダメなら打つ手はない。あとは街ごと破壊するしか……。


「成功です! 暴れていますが、抜け出せる気配はありません」

「よし、このまましばらく様子をみよう」


 魔王さえ隔離してしまえば、あとは慌てる必要などない。各自に念話を入れながら、魔王が逃げ出せないかを監視していった。

 この流れで仕留めたいところだが、魔王の能力がある限りは難しいだろう。不可能とは言わないまでも、それ相応のリスクを抱えることになる。



 まあそれはそうとして、ここから先は流れ作業が始まっていく。


 まずはすべての住民を追放して、郊外にある草原地帯に転送。待機していたナナシ軍が統制をはかった。


 もちろん大騒動となったが、杏子の放った特大魔法で一気に沈静化した。空が炎で真っ赤に染まると……大半の者は腰を抜かしていたよ。死人さえ出なければなにも問題ない。


 なお、服従していたときの記憶もあるようで、自分たちが操られていたことは認識しているようだ。魔王のなぶり者にされた人は気の毒だが……こればかりはどうしようもなかった。


 皇帝との対話は聖理愛が担当。転移してきた日本人たちも含め、街の住民たちは西の街へと移動を始めた。暗くなる前にたどり着けるのかは微妙だけど……そこまで面倒を見るつもりは毛頭ない。



 

◇◇◇


「みなさん、助けてくれてありがとう」

「ありがとうございます!」


 村の食堂では、ふたりの無事を祝って軽い夕食会が開かれていた。女性陣がふたりを囲って無事を喜んでいる。


 聖理愛と希望は思っていたよりも元気だったよ。拘束時間が短く、凌辱されなかったことが大きいのだろう。食事にも手を付けていたので、ひとまずほっとしている。



 帝国にいた日本人曰く――


 魔王が北の街にいたときから、かなりの女性が犠牲になっていたらしい。自我があり、意識もあるのに抵抗することができない。そのうえ記憶も鮮明に残っているのだ。精神的な苦痛は想像を絶している。


(被害者には申し訳ないけど……これで心置きなく殺れそうだ)








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