第249話 決着
食事も一段落したところで、いまだ未解決の問題に触れていった。
魔王を閉じ込めたとはいえ、このまま放置しておくことはできない。あのまま成長させてしまえば、もう誰にも手出しできなくなる。
「みんなもわかってると思うが――」
異世界の情報は、ネットなんかで日本中に知れ渡っている。となれば当然、教会の仕組みも知っているはずだ。すでに立ち寄っていると見たほうがいいだろう。
そして飢え死にするまで放置すれば、職業やスキルを持った状態で日本へ戻ってしまう。そうなれば同じことの繰り返し。ともすれば、今の状況より悪化する可能性すらある。
自衛隊の基地を乗っ取られたり、村を丸ごと占拠されると相当面倒なことになるだろう。
「じゃあ僕のスキルを使いますか?」
「いや、勇者の一撃はやめておこう。余計な火種を生むだけだ。ヘタすりゃ私たちが魔王扱いされるぞ?」
街を覆っている結界を解除、すぐさま『勇者の一撃』を放つ作戦だが……これは同時に街の壊滅を意味している。
何万という難民を生み、帝国民の恨みを買ってしまう。「街が消えても仕方がないよね。魔王を倒してくれてありがとう!」なんてことになるはずがない。直接の被害者は別としても、その他大勢は納得しないだろう。
それどころか、不満の矛先を向けてくるのが目に見えていた。
「結界を張ったまま、上空からぶっ放す手もあるが……」
「街はよくても、周囲は焼け野原ですよね」
以前に検証したとき、勇者の一撃は結界に弾かれてしまった。
通常の魔法ならば、すべて結界が吸収してしまう。だがあまりに威力が高いと……吸収が追い付かずに周囲へと拡散してしまうのだ。もし出力を抑えてなかったら、トンデモない事態になるところだった。
上空500mからの超距離攻撃、考えられる手段はそれくらいしか思いつかない。ある程度の威力を備え、命中率も高い武器……たとえばライフルみたいな――。
そう呟いたところで、夏希がとある提案をしてきた。
「ねえ、今こそアレの出番じゃない?」
「ん? アレってどれのことだ?」
「ずっと封印してた卓球セット……」
最初は何のことかと思ったが、なるほどたしかに威力自体は申し分ない。魔力の込め方次第で距離も伸びそうだ。
「命中率さえ上げれたら、なんとかなりそうじゃない?」
「なるほど……だがどうやって」
「ライフルは無理でも、ボウガン程度なら作れると思うんだよね。日本にいけば構造もわかるしさ」
それだと反発力が足りない気もするけど……まあそこは工夫次第か。試してみる価値はじゅうぶんにある。
「でも誰が狙うんだ? とてもじゃないけど、当てる自信はないぞ」
「問題はそこなんだよねー」
なにせ標的は500mも先にあるのだ。ド素人が狙ったところで当たるわけがない。相当な技術、さもなければスキルでもないと――
「あ、うちにひとりいるわ。狙撃の名手が……」
どうやらほかのみんなも気づいたらしい。政樹のスキルをコピーして、狙撃手は私が担当することになった。
――と、
ここまで段取りが整った以上、その後の展開など知れていた。壮絶なラストバトルもなければ、どんでん返しがあるわけでもなかったよ。
私に言わせれば、そんなものは準備不足の産物だ。自ら隙を作り、窮地を乗り越えるなんて芸当、物語の中だけでじゅうぶんだった。
結局8日後の朝、魔王は跡形もなく消え去った――。
唯一の見せ場といえば、3日目に魔王と接触したことくらいか。水や食糧を渡しに行ったら、妬みつらみの言葉をたくさんもらったんだ。そのおかげで、わずかに残っていた戸惑いも綺麗さっぱり消えてくれた。
◇◇◇
「やっぱりスッキリしませんね」
「まるでこっちが悪者、みたいなことを考えちゃうよねー」
「村へ襲撃に来た人とか、帝国賢者のときもそうでしたけど……。どうしても後味が悪くて」
村に戻って早々、桜と春香がそんな愚痴をこぼしている。やりきれない思いを感じているのか、食堂にいる面々も、似たような感想を言い合っていた。普段どおりにしているのは、私と冬也くらいなものだ。
「まあ、こればっかりは仕方ないさ」
「たしかにそうなんですけど……」
相手がどのような人物であれ、こちらの都合で殺したのは事実。自らのおこないを正当化しつつ、身勝手な後ろめたさを感じる。これくらいが丁度いい折り合いだと思っている。
以前もそうだし今回の件についても、村への実害を未然に防げたからいいものの――。
『もし聖理愛や希望が殺されていたら?』
『大切な人がなぶり者にされたら?』
罪悪感なんて悠長なこと、頭の片隅にもよぎらないはず。相手への憎悪だけが残り、復讐心に駆られる日々を送ることだろう。そんな結末を思えば、気持ちが晴れない程度のこと、些細な問題でしかない。
「……啓介さんの言うとおりですね。私もふたりが無事でよかったです」
「ああ、ホントそれに尽きるわ」
結果的には上手くいったものの、誰かひとりでも欠けていれば、魔王に対処するのは不可能だった。これもすべては、村人を増やし続けてきた成果だと思っている。
「さて、次は日本人の返還だ。聖理愛と希望にも手伝ってもらうぞ」
「ええ、任せてちょうだい」
「わたしも頑張ります!」
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