第246話 最強の能力者

 帝国の異変を知った私は、すぐさま女神を呼び出す。春香にも念話を入れて、ほかのメンバーにも召集をかけさせている。


 本当はすぐにでも助けにいきたい。


 だが私ひとりが慌てたところで、良案など浮かぶはずもない。はやる気持ちを押さえつつも、みんなの到着を待っていた。



「――というわけなんだ」


 それからややあって、村の精鋭メンバーたちが集まった。もちろん女神さまも同席している。


「これまたトンデモないのが現れたな。……で、聖理愛さんたちは?」

「ああ、いまはまだ生きてる」

「念話が使えたのが唯一の救いだよな」


 冬也同様、ほかの面子も心配そうにしている。未知の存在のこともそうだが、ふたりの安否をしきりに気づかっていた。皆が話しているうちに、私もPC画面を操作していく。


 先ほど帝国の様子を確認したが、上空からの映像には何の変化も見当たらない。広範囲に至る能力のようだが、結界のような現象は発生していなかった。


 それともうひとつ、捕らわれたふたりの姿は確認できている。鎖で縛られているが……さしたる外傷はなく、凌辱された形跡もないようだった。


「啓介さん、私に代わってください」


 当てもなく対象を探しているところで、女神がそう言って画面を操作し始めた。この世界の神なのだから、私が調べるよりも遥かに効率的だろう。


 どう判別してるのかは不明、されど迷いなく画面を動かしていく女神。 すぐに張本人を探し当てると――、


「え……、魔王ってどういうこと? なんでこんな……」


 動揺の色を隠しもせず、恐ろしく不吉な単語を呟いた。


 画面には30~40歳くらいの男が映っている。隣に数名の女性を侍らせ、近くには拘束された新皇帝の姿も見えていた。どうやら現在、新しく建てられた皇帝の館にいるようだ。


「ナナーシアさま、こいつが魔王ってのは……間違いないんですか?」

「はい、間違いありません……」

「でもどうして?」

「なぜかはわかりません。ですが彼、ユニークスキルを保有しています」


 女神はそう断定しているが、これは明らかにおかしな現象だった。以前にも聞いたとおり、この世界の神、すなわちナナーシアが召喚しない限り現れるはずがないのだ。


 この一件を引き起こしたのは日本の神々。女神は関与していないし、わざわざ召喚する理由もない。そう結論を出したのだが……今さらながらに気づいてしまった。


 召喚した神々には、すでにナナーシアも含まれているという事実に。


「啓介さん、恐らくそれが原因です。私が正式な神と認められたから……ごめんなさい」


 自分や村にも関わることだからか、人間っぽい感性を露わにしている。いつものようなお気楽な感じではなかった。


「さすがにこれはもらい事故ですよ」

「でも……」

「それに相手の能力さえ解れば対処できるはず。召喚したなら能力も見れますよね?」

「はい、それはもちろんです」


 いまだ蚊帳の外にいるメンバー、彼女らにも事情を説明していったが、女神を責めるようなヤツはひとりもいなかった。ここにいる誰もが想像できなかったのだから当然だろう。


 起きてしまったことを嘆いてもはじまらない。そう思い至って、すぐさま対策会議に移る。まずは何と言っても魔王の能力確認からだ。


===============

光史郎 Lv48 38歳

職業:魔王

ユニークスキル:君臨せし支配者Lv2

周囲500mの範囲にいる者を屈服させる

有効範囲は自由に調整可能

ユニークスキル所持者には無効

※ただし対象のスキルを封印して、

レベルを90%減少させることが可能


スキル:

剣術  Lv2

槍術  Lv1

格闘術 Lv1

身体強化Lv2

闇魔法 Lv1

治癒魔法Lv1

超回復 Lv1

空間収納Lv1

===============


 きっと日本では冒険者を、しかも上位層だったのかレベルがかなり高い。オーク程度なら素手でも倒せるクラスだ。戦闘経験は申し分ないと考えたほうがいい。


 そして肝となるユニークスキル、厨二病っぽい名称も含めて魔王らしい能力だった。範囲に入れば抵抗できず、ユニーク保持者にも極めて有効な能力。レベルが2なのは既に何度か使っている証拠だ。能力の詳細を把握している、そう見るべきだろう。


 自分なりの考察を切り上げ、女神に質問を投げる。この中で一番詳しいのは間違いなく彼女だ。


「街全体を結界で覆った場合、魔王の支配は解除できますか?」

「いえ不可能です。有効範囲に入れば逃れられません」

「では、魔王を結界で囲ったら?」

「捕らえることは可能です。魔王も結界を素通りできませんので」


 どうにかして結界さえ張れれば、閉じ込めることはできるようだ。ほかにもいくつかの条件が判明し、皆で情報を共有していった。


・『君臨せし支配者』は、魔王の移動に合わせて有効範囲もズレる。大移動をする場合、対象を連れまわす必要がある


・有効範囲は500mとあるが、地上だけでなく上空にも有効。しかもスキルレベルが5になれば、周囲10kmにまで効果が及ぶみたいだ


・状態異常無効や村スキル全般も封印されてしまう。それどころか、椿の使徒スキルまでもが使えなくなる


・一度有効範囲に入ってしまえば、どんな命令にも逆らえない。隆之介のような制約や制限の類もなく、文字通りの絶対服従となる


 結論、魔王の領域に入ればすべて終わり。勇者をも凌駕する最強のチート能力だった――。


「村長どうするよ? オレたちだと近づくこともできないぞ」

「村長や勇人さんでも厳しいです。レベルダウンの効果が高すぎて、近づけても意味がないですし」

「これだけ距離があると儂の咆哮も届かんぞ」

「街の人全員を犠牲にすれば、僕の一撃ならあるいは……」


 女神の説明が終わり、まずは手当たり次第に意見を述べていく。どこに糸口があるかもわからないため、聞き逃すことなく書き記していった。



 やがて意見が出尽くした頃、皆が私のほうを見て押し黙った。私自身、ある程度の算段も固まり、今後の行動指針を語っていく。


「まず優先すべきは聖理愛と希望の救出だ。その次に魔王の隔離、そして最後に排除。ここまではいいか?」


 魔王の気が変わり、ふたりがいつ殺されるかもわからない。街の人々を救出するのは二の次三の次、とにかくふたりを取り戻すことを優先する。


「これからすぐに向かうつもりだ。手順も考えたから、穴があったら指摘を頼むよ。まず最初に――」


 作戦の概要を説明しながら、全員でその精度を高めていった。





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