第235話 異世界ダンジョン、調査報告

 駐屯地での審査は予定どおりにおこなわれ、早くも3週間と少しが経過していた。村人候補は順調に増え続けており、村の開発も軌道に乗っている。


 ただ、気がかりなことがひとつだけあった。予想以上の合格率、これはもちろんありがたいのだが……このまま増え続けていくと住居が足りなくなる恐れが――。

 当面は大丈夫だと思うけど、いずれかの段階でいったん募集を締め切る。そんな可能性も出てきていた。



 そんなこんなもありつつ、今日は第8回目の現地審査を終えていた。鑑定を終えた春香と私は、いまから村に戻ろうかというところだった。


「春香、おつかれさん」

「おつかれー」

「今回も順調に終わったな」

「さすがに8回目だしねー。もうすっかり慣れたもんですよ」


 審査は毎週2回のペースで実施しており、都合4万人が現地に訪れていた。村人になる割合は、相変わらず2割を少し切るくらいで推移している。今日の段階で約6千2百人、これだけの人たちが村人候補になっていた。


 そんな一方で、入村を希望する者はまだまだ増え続けている。現在の応募者累計は30万人、そのうち政府の審査を通った者は13万人に及んでいた。すなわち、あと9万人以上は現地での審査待ち状態なのだ。


「最低でもあと20回は開催されるからな。覚悟しておいてくれよ?」

「うん、それは全然平気だけど……」


 何か思うところでもあるのだろうか。悩んでいる感じには見えないが……気になったので続きをうながしてみる。


「毎回毎回、8割以上は忠誠度が足りてないじゃん? 全員とは言わないけど……冷やかしに来る人達ってなんとかならないかなぁ」


 なるほどそういう……実は私も同じことを考えていたんだ。まあ結局、解決方法は見つからなかったけどね。


「それは諦めるしかないよ。事前に弾く方法はないし、現地に来ないと居住の許可が出せんからな」

「だよねー。わかっちゃいるんだけどさぁ」


 そんな愚痴を漏らす春香をよそに、手元の資料を眺めていく。今日までに村人候補となった者たち、その累計データが記載されている。


<年齢層>

・40代が最も多く、次いで30代20代と続く。なかには60を超える人たちもちらほらと散見していた。村に住めば若返るのだから、然して問題にはならないだろう。

「村に来たら病気が治りました」「なんだか若返っちゃったみたい」、そんな素敵な未来が待っているのだ。存分に楽しんでくれたらいい。


<男女比>

・男性が4割、女性が6割。これは人口比率による影響なのか、意外と女性の割合が高かった。


<従前の職種>

・初回と同じく飲食業や建設関係が多い印象だが、多種多様な職種がズラっと並んでいる。すでに仕事をやめたのだろうか、自称冒険者と名乗る者も多い。


 ただ、職業やスキル持ちの冒険者はひとりもいない。異世界から記憶を持って帰還した人、この1万人は募集対象から除外しているからだ。政府からの強い要望もあり、この取り決めは継続している。

 政府側としても、折角確保した貴重な人材をみすみす手放す気はないのだろう。別に拒否する理由もないので、こころよく了承してあった。


「そういえば春香もそうだけど、ほかのみんなの家族とか知り合いは? ここに来てたり、連絡はないのか?」

「ん、わたしはないよ? ほかのみんなもたぶん無いんじゃないかな」

「そっか、ならいいんだ」


 一応聞いてはみたものの、もうそこまで気にしてないってのが本音だ。たぶんこれ以降、話題に出すこともないだろう。ひととおりの確認も済んだところで村へと帰還した――。



◇◇◇


「みなさん、手元の資料をご覧ください」


 村に帰ってからは、異世界ダンジョンの調査報告会を開いていた。配られた資料に目を落としながら、司会役の桜が中心となって進行していく。


「まずは遺跡ダンジョンの復元についてから。現在の復元率は――」


 ダンジョンを破壊してから28日が経過し、現在の復元率は90%以上だと思われる。まだ進入はできないが……これまでの推移からすると、あと数日というところだった。ちなみに、30階層の転移陣もほぼ完全な状態まで修復されていた。


「完全復元を確認次第、9階層までを調査する予定です」

「10層のボスは倒さないんだよな?」

「はい。高レベルの狩場については、例のダンジョンで継続します」

「そうか、了解した」


 遺跡ダンジョンを破壊して以降、大陸の東にあるダンジョンを捜索していた。基本は村に近い場所からになるが……それとは別に、遺跡ダンジョンに近い場所でも1か所確保している。こちらはミノ狩りなど、レベルアップ用として利用しているところだった。


 すでに結界は張ってあるし、簡易施設の建設も完了している。現在は25階層まで攻略済みで、そのまま最下層まで進んでいく予定。このダンジョンが新たな狩場となっている。


「では次に大森林の捜索状況を――、ドラゴさんお願いします」


 村から東に広がる大森林地帯、その周辺の捜索は竜人と蛇人が中心となって実施している。上空と地下からの2面作戦を採用中だった。


「うむ。現在発見しておるのは10か所かの。いずれのダンジョンも、15階層の解放はされておらん。周辺に湧く魔物もオークまでじゃな」

「じゃあ、まだ見つかってない所があるってことだよな?」

「そういうことじゃな」


 東の森には転移当初からオークが湧いていた。とすれば、15階層まで突破されているダンジョンがどこかにあるはず。すなわち、未発見の場所が1か所以上はあるということに他ならない。


「村の東から南の海にかけて、7割がたの捜索は済んでおるでな。あと5か所ほど、というところかの」

「なるほど、そこを見つけて破壊すれば……オークも湧かなくなるわけか」

「村長よ、東の森ダンジョンを忘れておらんか? あそこは19層まで進んでおるのだぞ?」

「あ、そうだっだ」


 村の東からオークを消すには、残りの未発見ダンジョン捜索、そして攻略深度の確認。さらには東の森ダンジョンを破壊する必要がある。まだ時間はかかりそうだが、そう遠くない未来には実現可能だと思えた。


「村長から話が出たので先に言いますが、遺跡ダンジョン周辺からはミノタウロスが消えました。再出現もしていません」

「あれ? 巨大牛はどうなんだ?」

「そもそも巨大牛は一度も見かけていません。25階層まで攻略しても、地上に湧くのはミノとオークのみだと思われます」

「そうか……。話の腰を折ってすまん、続けてくれ」


 まだ絶対とは言えないが……。5層攻略でゴブリン級が湧き、15階層攻略でオークが湧く。そして20階層攻略でミノタウロスが湧く仕様みたいだ。巨大牛が地上で暴れないというのは朗報だった。


「――では最後に、発見したダンジョンの保護について報告しますね」


 村の東一帯で発見された10か所のダンジョン。これについては以下のような処理を施してあった。ちなみにこの作戦には私も参加しており、現地の状況はしっかり把握している。


・ダンジョンの発見後、入り口付近に土魔法で作った塔を建てる。これは上空から見た場合の目印になる。塔の高さは30m、これが今の限界高度だった。


・塔とダンジョンを囲うカタチで、ドーナツ状に結界を構築。結界は最大高さの100mまで伸ばす。これはダンジョン周辺の安全確保、そして塔の保護を目的としている。


・結界の色は薄く目立たないため、塔を作って目立つようにしてある。これにより上空からの発見は容易になった。

 まだ確定ではないが、ダンジョン間の距離は等間隔に近いことが推測できている。発見数が増えればおのずと明らかになるだろう。


「今日の報告会は以上となりますが……村長、ほかに何かありますか?」


 桜が閉会を宣言したところで、最後に私からひと言だけ――。


「異世界の調査も重要だが、こちらはゆっくりと慎重に進めていこう。3日後には村人が移住してくるから、皆もそのつもりで頼むよ」

「ではしばらくの間、ダンジョン調査は控えめにしましょう。調査隊の編成が整う場合のみ実施します」

「ああ、そうしてくれると助かる」





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