第234話 現地審査初日
村人審査の当日、
駐屯地への乗り込みを1時間後に控えた私は、優雅に朝食をいただいているところだった。
思ったよりも緊張感はなく、あとは成り行きに任せるばかり。春香とふたりで段取りを確認しながらのんびりと過ごしていた――。
村の開拓を始めてから1か月半、現在の進捗率は4割強というところ。住居は長屋を優先しており、5千人程度は受け入れ可能となっていた。最低限の生活用品は揃えてあるが、日本のような快適性はない。最初のうちは、あえて不便さを感じてもらう狙いがあるからだ。
また、村には多くの家が立ち並んでいる一方で、そこに住んでいる人の数は極端に少ない。昼は獣人たちで賑わっているが、夜はゴーストタウンさながらの雰囲気を
娯楽施設がオープンして、ラノベや漫画、ゲームなんかも充実している現状。あとは日本人の……いや、楽しみを共有できる仲間を待つばかりだった。
「よし、そろそろ行こうか」
「いっちょ気合入れていきますか!」
食事もおわったところで、春香と一緒に駐屯地へと向かう。とそこには、大勢の人の姿があり、ライブ会場さながらの賑わいを見せていた。
――――
「それではみなさん、只今から現地審査を始めます。受付番号順に並んで前へ進んで下さい」
政樹のアナウンスに従い、人だかりが列を形成し始める。今日は審査だけなので応募者の手荷物は少ない。ほとんどの人は身軽な装いで訪れていた。
ちなみに今回はライブ配信を中止している。動画の撮影もあえてしてない。村人候補者を晒し者にするつもりはないからだ。
我ら同志の中には、「村には行きたいけど目立つのは嫌だ」みたいな人も多くいるはず。そんな人たちへの配慮をした結果である。
――やがて列も揃い出した頃、
総勢2千5百人を前にして労いと感謝の挨拶をおこなった。と同時に、ここにいる全員に対して居住の許可を出す。結界の中に入ってないので、まだ村人としてのカウントはされていない。
「早速ですが、今日の審査方式についてご説明します。まず初めに――」
みんながいる広場には、2m四方の結界が2か所設置してある。空港にある入国審査のゲート、あれと似たような感じ。
忠誠度が50以上ならば通過でき、50未満ならば弾かれて自動追放される。追放場所は安全な場所なので怪我をする心配はない。
無事に結界を抜けた者を私と春香で鑑定、忠誠度を記帳していく手順で進めていく。時間の都合上、事務的になってしまうのは勘弁してほしいところだが、これなら手早く済ますことができるだろう。
その後は政府の登録所で手続きを済まし、村の見学をしてもらう予定をしている。
「では、先頭の方からどうぞ――」
「通過できた人はこっちに来てねー」
無事に通過できた人、そして結界に触った瞬間に飛ばされる人。ほとんどは後者だったが……思っていた以上の結果になりそうだった。結局、午前の審査はスムーズに進み、正味2時間ほどで完了した。
◇◇◇
「ふぅ、意外と残ったねー」
「ああ、予想以上の結果だよ。正直なとこ、もっと少ないと思ってた」
「旅行気分の人がほとんどだったけど」
「それは仕方ないよ。交通費は自腹なんだし、それにこの辺も活性化するんじゃないか?」
「逆にいい迷惑かもだけど」
今回残ったのは全体の2割程度、約5百人が村人になれていた。事前の予想よりも遥かに通過者が多い。裏を返せばほとんどは冷やかし組、物見遊山というヤツだが……まあそれは仕方のないことだろう。
「なんにせよこの5百人は、本気で移住するつもりの者たちだ」
「今までの生活を捨てるなんて、普通は中々できないよね」
「ああ、私たちのような巻き込まれではないからな」
会社を辞め、知人とも別れ……ある意味、世捨て人になるわけだ。相応の覚悟と願いをもって訪れている。
「んー、この調子だと最終的には1万人くらいになるのかなー?」
「いや、まだ様子見してる層もいるだろうし、もっと増えるんじゃない? 知らんけど」
「だといいよねー」
「それより春香、審査人数はどうだ。私は平気だったけど――」
「これくらいで丁度いいんじゃない? あんまり多すぎても、政樹さんたちが困るし」
(まあ、あまり欲張るのも良くないか)
その後、結界に弾かれた者たちは帰っていった。いまは自衛隊に誘導されて大型バスに乗り込んでいるところだ。目立った混乱もないようなので、あとのことは放っておくことにした。
一方、審査を通過した5百人は村に誘導されていく。今日はあくまで見学だけで、教会での授与式もないし寝泊まりさせる予定もない。ひとまずのところは獣人たちと会話したり、村の雰囲気を肌で感じてもらえたらと思っている。
――と、そんなこんなで午後からも審査が続き、最終的に村人となれたのは約9百人。全体の2割を少し切るくらいになっていた。
現在の村人口が約3千7百人、それを思えば十分過ぎる成果だと思う。これで女神の信仰度もあがってポイントもガッポリ入る。将来的にはとてつもない敷地を手に入れられるだろう。
むろん、日本を占領するなんて考えは微塵も……いや、ちょっとはあるけど。とにかくポイントはいくらあっても構わない。いつか起こるかもしれない大惨事に向けて、しっかり貯蓄していきたいところだ。
「さあ、私たちも村へ帰ろう」
「みんな驚くだろうねー」
村に戻ったあとは、一部を除いて予定どおりに進行していった。村中を回ったり施設を見学したりと、夕方まで楽しい時間が過ぎていく――。
間近で見る獣人の姿に驚き、その場で大はしゃぎする者。教会を見てウズウズしている者。娯楽施設に入り浸ろうとしている者。反応は様々だが、全員の表情はすこぶる明るかった。
途中、アイドル夏希の握手会なるものが始まり、長蛇の列を作ったりと……思わぬハプニングもあったけどね。
あ、それともうひとつ驚かされたことがあったんだ。
なんということか、私の評判がそこそこ良かったのだ。忠誠度が高いのだから当たり前、そう言われたらそれまでだけど……。やはり嫌われるよりかは好かれるほうが断然うれしい。
ちなみに女性からの人気はイマイチだったよ。別に悪くはなかったんだけどね。そういうのは勇人やドラゴたちが全部
ただ、同年代のおっさん連中からは結構な信頼を得ている。見た目は若い私だが、そこはかとなく漂うおっさん臭がしたのかもしれない。
全員が見学を終えたところで、村人を集めて締めの挨拶をおこなう。
「ここに集まったみんなは異世界に憧れた同志だ。むろん、ファンタジーのご法度は重々承知だとおもう。無双もハーレムも結構だが……胸糞主人公ルートだけは避けて頂きたい」
大勢の前で話すのも今となっては手慣れたもの。ひとまずウケを狙ってみたのだが……反応はまずまずのようだ。それなりにヤジが飛び交い、笑い声も聞こえている。
「私自身、国を
獣人たちの盛大な拍手とともに、初日の審査が幕を閉じた。
実際、彼ら彼女らが移り住むのは1か月ほど先になる。さらなる開発を進めて、受け入れ準備を整えていこう。
そんなことを心に誓うおっさんであった――。
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