第232話 政樹と椎名と柚乃
日本と異世界のダンジョン、その両方の検証も終わり――。
いよいよ明日、はじめての現地審査が始まろうとしていた。
そんな大事を前にして、今日は審査の最終確認をおこなっている。対策室の3名と一緒に、早朝から細かい調整を続けていたのだ。ちなみに本日、村ではふたつのイベントが
(まあそのひとつは、ついさっき終わったはずなんだけどね。全然収まる気配がないんだよ……)
「いやはや、それにしても『狙撃手』って凄くないですか? 初めてなんですよね、遠距離物理職って」
「ねえ、そのくだり何度目? そろそろ明日の対策に移りましょう……」
「そうは言っても村長、夢にまで見たファンタジーなんです。今日くらいは語らせてくださいよ」
政樹が熱弁しているように、ここにいる3人は職業とスキルを授かっていた。今朝がた正式な村人となり、そのまま教会に直行していたのだ。政樹の職業は『狙撃手』でスキルは『狙撃Lv2』、椎名は『細工師』、柚乃は『農民』になっている。
3人とも大興奮のまま、かれこれ1時間は経とうかというところ。あまりに騒がしいため、明日の資料に目を通していても、まったく頭に入ってこなかった――。
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政樹 Lv47
村人:忠誠88
職業:狙撃手
スキル:狙撃Lv2
視力および視野が高まる
遠距離攻撃の命中率が向上する
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椎名 Lv45
村人:忠誠77
職業:細工師
スキル 細工Lv1
細工や加工に上方補正がかかる
対象:木材
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柚乃 Lv45
村人:忠誠79
職業:農民
スキル 農耕Lv1
土地を容易に耕すことができる
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ちなみに彼らのステータスはこんな感じ。
見てのとおり忠誠度が非常に高い。これなら裏切りの心配はいらないと思う。あと注目すべきは政樹の能力だろうか。観測史上初の遠距離物理職、これには驚いたけど……あの腕前を思えば納得がいくというものだ。
――と、ようやく3人の興奮も収まったきたようだ。また再燃しないうちに、とっとと話を進めていく。
事前登録制の採用により、ネット上での受付は順調に進んでいた。いまだ登録者は増え続けおり、厳正なる審査によってふるい分けがおこなわれている。
現在の応募総数は12万5千人、そのうち書類審査を通過した者が5万5千人ほどとなっている。男女比は半々のようで、年齢や職業は多種多様という感じだった。
「年齢層についてはこちらを――」
<年齢層の分布>
18歳19歳:10%
20~30代:40%
40~50代:40%
60~70歳:10%
20代から50代が8割、60代も1割程度の応募がある。10代が少ないのは対象年齢を制限しているためだ。「よく両親が許してくれたな」と、これでもじゅうぶん多いと感じている。
また既存の職業も様々で、飲食業や建設業、農業や公務員など多種多様。なかには漫画家や小説家、アニメーターなどもいた。ご丁寧なことに、必要器材の持ち込み申請まで提出している。
「政樹さん、ここに書いてあるランキングって――」
「あ、それは入村後の配属先ですね」
「冒険者や農家はわかるんですけど……嫁とかハーレムって何?」
なりたい職種第1位は『冒険者』、2位は『農家』、そして3位は『なんでもやる』と載っていた。だが4位に『嫁』、5位には『ハーレム』と続いている。しかもこれ、本気で書いている人が結構いるらしいのだ。
「その2つを書かれた方々、ほとんどは書類審査に合格しています。他の項目は至って真面目に記載されていたので。案外、強者なのかもしれませんよ」
「いや、そこはかとなくダメな気が……」
なんの根拠があるというのか、政樹の顔は自信に満ち溢れている。嫁はまだしも、配属先がハーレムって……いったいどういうことなんだ。これ以上は考えても無駄、今のは聞かなかったことに――。
「ではこちらはどうです? なかなか有望な人材だと思いますよ」
「どれどれ……」
とても信じられたものではないが、政樹の指差す項目に目を落としてみる。と、そこには応募者たちの趣味一覧が書かれていた。
ラノベやアニメ、ゲームにキャンプ、DIYや家庭菜園など、素晴らしい趣向の数々が並んでいる。これは予想していたことであり、望んでいたことでもある。真剣に考えている同志がいたことにホッと一安心した。
「どうですか? なんでしたら、好きなラノベやゲームのタイトル一覧も用意してますよ?」
「正直、ものすごく興味あるけど……それはまた次回にしましょう。このあとのイベントもありますしね」
「あ、そうでした。ではまた後日に!」
「ところで政樹さん、明日の予定はどうなってますか?」
「はい、それでしたら――」
ようやくそれらしい話に移り、そこからは粛々と調整を進めていった。
明日は午前と午後の2部制、合わせて5千人を審査することになっている。駐屯地にある広場に応募者を集めて、春香とふたりで鑑定していくのだが……普通にやってたらとてもじゃないが終わらない。
(まあ、あの方法なら大丈夫だろう)
書類審査に通過した5万5千人、このうちの何割が村人になれるのか。それが今から楽しみで仕方がなかった。できることなら一人でも多く、たくさんの同志を引き入れたい。
ほとんどの人はお祭り気分で来てるのだろう。けど、なかには本気で考えてくれた同志もいるはずだ。今までの生活を捨ててくるのだから、その意気込みは相当なものだと思っている。
「さて、私たちもみんなのところへ行きますか。……かなり出遅れちゃいましたけどね」
「村長、今日からよろしくお願いします」
「わたしも頑張っちゃうよー!」
「今日から張り切って耕します!」
「おい、村に住むのはまだ早いぞ。しばらくは対策室の仕事をしてくれ」
頼れる同志が3人も加わり、本日のメイン会場へと急ぐのであった。
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