第231話 ダンジョンの破壊検証(その2)
公園ダンジョンを破壊して7日目の夕方、入口の完全修復を確認。鑑定を試みたところ、『再生中』の文言は消えていた。見た目もほとんど変化なく、中に入ることも可能だった。
それから2日かけ、9階層までを調査した結果――魔物は通常どおりに湧いており、種類が変化していることもなかった。レベルや強さに関しても、まったく同じだということが判明している。
『こちらの準備はすべて整った。いつでも破壊可能だぞ』
『ネイル、もう少し待ってくれ。捕獲班からの連絡がまだなんだ』
『そうか、ではこのまま転移陣の前で待とう』
そして本日、異世界ダンジョンの破壊実験を決行する。
ネイルは最下層で待機中、私は遺跡ダンジョンの入り口に陣取っていた。あとは地上にいる捕獲班の連絡を待つばかり。あいつらはいま、ミノタウロスを捕まえに行ってるところだ。
(よし、今のうちにおさらいしておくか)
冬也たちの連絡を待つ間に、女神から得た情報を再確認しておく。
1.ダンジョンの監視者は月の女神であり、彼女以外、破壊することは不可能である。だが現状、月の女神の神力は無いに等しい。この状態ならば破壊できる可能性はある
2.たとえダンジョンを破壊しても、元の場所に自然生成される可能性が高い。日本での実績があるので信憑性は高いと思われる。なお、復元に要する日数は不明である
3.そもそもダンジョンとは、魔素の増幅装置のようなもの。一斉に破壊すれば、一時的な魔力枯渇状態になりえる。もし破壊可能だとしても、数か所程度に留めるべき。復元を確認してから判断してほしい
4.過去に前例がないため、地上に湧く魔物がリセットされるかは不明。月の女神もただの監視者、コレに関する情報は持っていないはず。もし知っていたのなら、とっくの昔に対処していただろう
(と、大体こんなところか。結局、やってみないとわからんな……)
そう思っていた矢先、ちらほらと念話が入りだし、残すところ冬也の班だけとなっていた。
『村長ごめん、少し手間取った』
『それはいいけど、なにかトラブルか?』
『いや、手加減が難しくてさ。やっと上手くいったよ……』
『それなら良かった。ネイル、聞いてのとおりだ。始めてくれ』
『わかった、ではいくぞ』
ネイルの言葉から数秒後――魔力の奔流が地上に溢れ、はるか彼方まで広がっていった。日本のときとはまるで比べ物にならない。膨大な魔素とあまりの濃度に、少し酔ったような感覚に
それは地下にいるネイルも同じだったようで――
『村長……大丈夫か……』
『ああ、ちょっと気持ち悪い程度だ。それで最下層の様子はどうだ?』
『石柱の破壊には成功した。こちらでは既に復元が始まっている』
『そうか、大役ご苦労さま。悪いがしばらく様子を見ててくれ』
と、ふたりでそんなやり取りをしているのだが……ほかの連中からは一向に連絡がない。こちらから呼びかけても、誰一人として返事をする者はいなかった。
それからもしばらく、誰とも連絡がつかない状態が続いた。居ても立ってもいられずに、捜索をすべくこの場を離れようとしたとき――、
『……だこれ、聞こえてないのか?』
『……さん、大丈夫なの?」
『……ったいどうなっておるのだ』
ようやくみんなから念話が入る、それも全員から一斉に。
『やっと聞こえた……。みんなどうしたんだ? 大丈夫なのか?』
『啓介さんこそ大丈夫なの? 急に念話が途切れて心配したんですよ』
『私は平気だ。下層にいるネイルもな』
原因はわからないが、一時的に念話が使えなくなっていたようだ。最下層にいるネイルとは普通に会話できてたんだが……。もしかして、さっき溢れ出た魔素の影響だろうか。
『とにかく、一旦ここに集合してくれ。話はそれからにしよう。また念話が途切れても困る』
それから待つこと20分、全員が無事に戻ってきた――。
◇◇◇
「マジでビビったぞ。村長、死んじまったのかと思った」
「それは俺もだ冬也、でも無事でよかった。みんなもお疲れさま」
お互いの無事を確認したところで、さっそく本題にはいる。
・目に見えるほどの魔力波が通り過ぎた瞬間、ミノタウロスが消滅した。討伐したときとは違って、魔石や素材も残っていなかった
・すぐに連絡を入れたがまったく通じなかった。時間にして3分ほど。椿にも念話をしたけどダメだった
・今いる場所も含め、ここ一帯の魔素量が極端に減少している。ドラゴ曰く、日本のときとまったく同じ状態のようだ
捕獲班の意見をまとめると、おおむねこんな感じだった。思わぬ展開もあったが、周囲の魔物が消えることは証明された。あとはダンジョン復元後、地上に湧き始めるかを確認するだけとなる。
「啓介さん、これは聞くまでもないでしょうけど……」
「ああ、無理に解放するつもりはないよ。大したメリットもないしね」
「ですよね」
桜が言いたいことはすぐにわかった。ダンジョンのリセットを続けて、大陸の東を浄化するのかってことだ。
「だけど、調査したいことは増えたよ」
「調査したい……それって、復活したあとの遺跡ダンジョン?」
「もちろんそれもあるけど――」
今後の目標として、大陸東のダンジョン捜索を進めたいと思っている。ただし、村に近い場所限定になるけどね。
村から東に位置する土地、その一帯を調査してダンジョンを見つける。そして攻略深度の確認をおこなう。場所と深度さえ把握しておけば、いつでも攻略ができる。それにリセットすれば、結界がなくても行動範囲が広がるはずだ。
「なるほど、村から東に向かって勢力を広げていく。ってことですね」
「結界を拡げるかは未定だけどね。その準備だけはしておきたい」
「たとえ結界がなくても、ゴブリン級だけになれば問題ないですよ」
この調査については、竜人族と蛇人族を中心にお願いした。上空と地下、その両方から探索すれば効率がいい。ドラゴとネイルも
『ネイル、そっちも適当に切り上げてくれよ。ほかの転移陣は普通に使えたんだろ?』
『ああ、すでに試してあるから問題ない』
以前に学生村長がいた人属領、そこで見つけたダンジョンから脱出が可能だ。外には結界が張ってあるし、転移陣で戻れば一瞬で帰れる。こんなところで役に立つとは思わなかったが、張っておいて正解だった。
「さあ、私たちも帰ろう。明後日には例のアレが解禁するし、こっちのことはボチボチ進めていこうか」
「おおー、やっと入れるんですね!」
「オレも絶対見にいく!」
「冬也、儂を忘れるでない! かの武人があの後どうなったのか……気になって仕方ないんじゃ!」
――こうして、ダンジョン検証にもようやく終止符がつく。
村人受入れを数日後に控え、意気揚々と帰還するおっさんであった。
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