第229話 消滅させてもよろしくて?
室長との協議から1週間、本日ついに政府の募集要件が公示された。
それと同時に、ネット上での事前受付も始まっている。必要な項目を入力することで、すぐにでも予約ができるようだ。
入力フォームを眺めてみると、かなり細かい情報を要求されている。その詳細は省くけど、政府の本気度が伝わってくる内容だった。室長の政樹と並んで、画面を見ながら確認を続けていく――。
「どうでしょうか。おおむね、村長のご要望どおりかと思いますが」
「ええ、問題ありません。多少気になるところはありますけどね」
長々と続く入力項目には、好きなアニメや漫画、ラノベのタイトルを答える箇所があった。そのほかにも、「ケモ耳は好きか」「モフモフが正義か」「ロリと熟女、どちらが好みか」なんてものまである。もちろんこんな要望、出した記憶はまったくない。
「応募者の熱意や趣向、それに性癖を把握することは必須です。ここを適当に回答した者は、問答無用で振り落としますので」
「なるほど……理にかなっている、ような気がしないでもない?」
ツッコミどころは満載だが、まあ良しとしよう。政樹さんの態度を見る限り、ふざけているようには到底思えない。きっと綿密な調整が……あったことにしておこう。
募集に関する確認をしたところで、今度は冒険者制度の話題に。ダンジョン運営が始動したことで、諸々の進展があるようだ。なかには私たちにも関わる変更点がいくつかあった。
現在、全国各地に存在するダンジョンは20か所。そのすべてが管理されており、入場ゲートも設置されている。自衛隊の警備は抜かりなく、冒険者以外は勝手に入ることができない。
それに伴い冒険者制度が本格化、現在は完全登録制を採用中である。とは言っても、とくに厳しい審査はなく、誰でも比較的簡単になれてしまう。
ただし未成年者の入場には、保護者の同伴が必須条件となっていた。巷では『親子狩り』なるものが流行っており、一部のオヤジ連中は相当張り切っているらしい。
また、人物鑑定の魔道具が開発され、各ダンジョンの受付で無料鑑定を受けられる。というのは建前の話で……入退場の際、必ず利用する義務が生じる。理由については言うまでもないだろう。
ちなみにこの魔道具、判明するのは『名前』と『レベル』だけ、スキルなどの詳細はわからない。
「たしか、武器や防具の開発も進んでましたよね」
「はい、冒険者には格安で販売しています。レンタル制度もありますよ」
鉄製の剣や槍をはじめ、胸当てなどの急所を守るものがメインみたいだ。ダンジョン併設の預り所で、武具の一時保管をしている。外への持ち出しは不可、ダンジョンでしか利用できない規則だった。
「鑑定もそうですけど、ずいぶん徹底してますね。やはり、冒険者の犯罪抑制ってことなのかな?」
「おっしゃるとおり、登録者の犯罪行為は厳罰化されています。とくに日常生活における場合は一発退場です」
「退場って……まさしくそういうこと?」
「ここだけの話、ダンジョンに連行してから対処しています」
法で裁くには限界があるけど、ダンジョン内ならやりたい放題だ。魔物に殺されたことにすれば誰にもわからない。この口ぶりだと、もう何度もやってるんだろう。
武具の預り所では、魔石と素材の買取もおこなっている。現金取引ではなく、マイナンバーカードを利用していた。
登録銀行と紐づけており、自動で入金される仕組みなんだと。このおかげもあってか、カードの普及率はかなり上昇したらしい。
「ところで政樹さん、私たちにも関連することってのは?」
「あ、実は魔石の価格が見直されましてね。詳しくはこちらを――」
渡された用紙に目を通すと、魔石の価格表が記載されていた。素材に関しては端折るけど、書かれている内容は大体こんな感じ。
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『ゴブリン級の魔石』
1個あたり5千円(以前は2千円)
『オーク級の魔石』
1個あたり3~5万円
『オーク上位種の魔石』
1個あたり10~20万円
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「冒険者制度の活性化を目的として、近々買取価格を上げる予定です」
「あれ? オーク上位種って、もう狩られてるんですか?」
「いえ、上位種に関しては想定価格です」
「なるほど、でもこの価格なら夢がありますよ。一攫千金狙いで盛り上がりそうだ」
一部の冒険者たちにより現在9階層まで攻略が進んでいる。ただ、現在のところは通常のオークしか出現していない。もし異世界と同じならば、10階層のボス部屋で初遭遇するはずだが……こっちではどうなんだろう。
『ダンジョンを攻略するとどうなるのか』
以前女神からは、最下層を攻略すると消滅する、ってのは聞いていた。けど実際どんな感じなのか、消滅した後はどうなるのか、それがずっと気になっていたのだ。
村人の受入審査までは1か月ある。丁度いい頃合いだと思い、政樹に打診してみることに――。
「政樹さん、ちょっと相談が……」
「相談、ですか?」
「近くにある公園ダンジョンって、消滅させたらマズいですかね?」
◇◇◇
それから10日あまりが過ぎ、紆余曲折ありながらもダンジョン攻略の許可が下りていた。さすがに室長の一存では決められず、かの人物にお伺いを立てることになったのだが――。
「さあ、張り切って参りましょう!」
「室長! いつでもオッケーですよ!」
そう息巻いているのは室長の政樹、そして補佐役の椎名と柚乃だ。
ナナシ村産の防具に身を包んで、ダンジョン併設の受付所に集合しているところだった。そのほかにも冬也と桜の日本人メンバー、そしてドラゴたち獣人も集まっている。
「政樹さん、今日はあくまで見学ですからね。絶対前に出ないでください。速攻で死にますよ?」
「はい、後方でバッチリ寄生してます!」
「「ゴチになりまーす!」」
この発言は兎も角として、今日は3人のレベルアップを兼ねている。忠誠度が非常に高く、将来村人になることは確定。しかも現在の私たちにとって、最も重要な人物でもある。どこかでうっかり死なない為に連れてきたのだ。
「じゃあみんな、改めて編成を確認するぞ」
そう宣言をしながら参加メンバーを見渡していく。本日の攻略班は以下のとおりだ。
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前衛:冬也、ドラゴ、ネイル
後衛:村長、桜、秋穂
斥候:レヴ
見学:政樹、椎名、柚乃
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私と秋穂で3人の護衛をしつつ、あとのメンバーがゴリ押しするという感じ。作戦もへったくれもない、ただの脳筋パーティーだ。
誘導は斥候のレヴに任せて最速で潜っていくことになる。なお自衛隊の方々には、同行を遠慮してもらったよ。銃を誤射されるのが一番怖いからね。
と、準備も整ったところで、転移陣を使って5階層まで移動を開始。そこからは探知を使いながら下層を目指すことになる。
レベルの低い3人もいるので、出会った魔物を屠りつつも順調に進んでいった――。
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