第222話 魅惑のファンサービス
『みんなのアイドル夏希ちゃん』
それが偶像ではなく、まさに現実のものとして目の前に存在していた。
==================
夏希 Lv48
村人:忠誠99
職業:匠、アイドル
スキル 技巧Lv5
あらゆる素材の加工に上方補正がかかる
完成品に特殊効果付与:超高確率
稀に大成功が発生し特殊効果が倍増する
スキル:ファンサービスLv3
自身の演技力が大幅に向上する
自身の歌唱力が大幅に向上する
自身が発した言葉に微小の魅了効果付与
================
基礎レベルと忠誠度のことはいいとして――。技巧スキルのレベルが5になり、特殊効果の付与率が『超高確率』に変化している。こっちもじゅうぶん凄いんだが……今回はそれどころではない。
まずは職業欄。元々の職業『匠』のとなりに『アイドル』の文字がしれっと存在している。私の記憶がたしかなら、2つの職業が並んで表示されているパターンは今回が初めてのはずだ。
上位職に進化したわけでもなく、かといって転職というわけでもない。ファンタジー的に言えば『サブ職業』、現代社会で言えば『副業』という位置づけなのかもしれない。
そして肝心のスキルは『ファンサービス』
これぞまさにアイドルって感じの能力だった。とくに魅了効果の項目が際立っている。どうやら精神干渉系ではなく、相手の共感を得たり、好感度を上げるタイプの能力みたいだ。詳細文にもそんな感じの表記がされていた。
「なるほど、これが噂の『ファンサしちゃうぞ☆』ってヤツか。なんとも末恐ろしい能力だな……」
私と夏希、それと秋穂以外は全員、疑問符を浮かべている。どうやら誰にも知らせていなかったらしい。発言の意味がわからなかったのか、すかさず冬也が聞いてきた。
「なあ、ファンサってなんのことだ?」
「ファンサービスの略称だ。おまえも聞いたことくらいあるだろ?」
「いや、それはもちろん知ってるよ。オレが聞きたいのは、夏希の鑑定結果とどう関係してんのかってこと」
説明するのは容易いが、言い回しには細心の注意が必要だ。迂闊な発言をして夏希の逆鱗に触れるわけにはいかない。そう思った私は、彼女の顔色を窺いつつ、丁寧かつ慎重に打ち明けていった――。
「と、まあこんな感じだ」
「人気の理由にはそんな秘密が……オレ、全然気づかなかった」
「そりゃそうだろ。冬也はすでにベタ惚れ状態なんだからな」
「あー、それもそうか」
と、冬也は少し照れながら返していた。とっくに魅了状態なのはバレバレだ。ほかのみんなも納得顔だし、解釈一致ってことで良いと思う。冬也の態度を見た夏希も、まんざらではないようだしね。
(そういや、すっかり忘れてたけど……。<職業進化の秘密:50,000pt>を解放したほうがいいのかもなぁ)
◇◇◇
アイドル爆誕の翌日、
昨日の反響が気になったので朝一で確認をしてみることに。
その結果は――予想を大幅に超える盛況ぶり、再生回数がエグいことになっている。
何度見返しても再生数の桁が明らかにおかしい。「もうこれ、働く必要ないんじゃね?」っていう次元だった。まあそもそも、日本でまともに働くつもりはないんだけど。
「村長ー、動画の伸びはどんな感じー?」
「私の想像なんて遥かに超えてたよ。これも夏希たちのおかげだ」
「うんむ、もっと褒めたまえ」
ふんぞり返って偉ぶる夏希は、昨日のことなどどこ吹く風、ご満悦の様子でそんな冗談を言っていた。どうやら今日も絶好調のようだ。
「今日の発表だけどさ。夏希がやったほうがいいんじゃないか? スキルのこともあるし」
「いやダメでしょ……せっかく忠誠度を上げるチャンスなんだから」
「やっぱダメだよなぁ」
「わたしへの忠誠度を上げても意味ないもん。って村長、わかってて言ってるでしょ」
今日の配信タイトルは『村の教会でスキルをGET!』。私に対する忠誠度を上げるには持って来いのイベントだった。獣人たちとの共同生活。それと並んで、村人誘致の目玉商品となる。
『村人になればスキルが貰える!?』
『場合によってはレアスキルも!?』
なんて煽り文句をつければ完璧だろう。少なくとも、私なら速攻で喰いつく自信がある。
なお、若返りについては公表しないつもりだ。あくまで異世界に興味のある人を集めたい。もっと言えば、異世界でもたくましく生きられる人材が欲しい。
若返りだけが目的だと、仮に村人になれてもその後が続かない。めんどくさい連中も絶対寄ってくるだろう。私たちが若返った理由は、『異世界の不思議現象』と言うことで片づけておく。
「さて、と。今日も頑張りますよー!」
「ああ、たっぷりファンサービスしてくれ」
配信開始の20分前――、
村の中心部に到着すると、撮影係の武士が器材の準備を始めていた。
この場所には、教会のほかに女神像を設置する。爺さんの家があるので、わざわざ領主館まで建てるつもりはない。今後どうなるかは不明だけど、村人が爆発的に増えたら役場的なものを作ろうと考えてる。
それでも念のため、中央部分の敷地はかなり広めに確保してあった。場合によっては、ここにダンジョンを置く可能性があるからだ。村のド真ん中にあるほうが、見栄えもするしアクセスも容易いと思う。
「樹里さん、準備オッケーっすよ!」
「じゃあ皆さん始めますよ。村長も打ち合わせどおりに」
「こっちはいつでもいいぞー」
樹里のGOサインが出たところで2日目の配信がスタートする。夏希の軽快なトークが続いており、好調な滑り出しをみせていた。――っと、さっそく出番が回ってきたようだ。
何もない空間からいきなり建物が現れると……コメント欄がお祭り騒ぎと化す。そのコメントに返答しながら、教会を設置する目的を説明していった。今日は椿が隣にいるので、アンチコメントも全然気にならない。
『村長、そのまま中に入りましょう』
『了解した』
樹里の指示に従って教会の中を紹介していく。あまり広くはないが幻想的で素敵な空間だ。それに心なしか女神像も輝いて見える。きっとナナーシアさまの演出なんだろう。
――と思ったら、像からすり抜けるように本人が登場した。
『おいおい、こんなの台本にあったか?』
『いえ、私は聞いてません。たぶん女神さまのアドリブかと……』
『えぇ……でもどうすんのこれ?』
『ひとまずなんとか繋いで下さい』
意図せず現れた女神だったが、その容姿も相まって視聴者の反応は悪くない。むしろさらに盛り上がっていた。女神の認知度もすこぶる高まったと思う。
結局、そのまま女神に委ねることで事なきを得る。丁寧に解説をしてくれたし、サプライズイベントにもなった。結果的には大成功と言っていい。まあ、事前確認は欲しかったけどね……。
「――というわけで、皆さんも村人になれば……ぜひご検討を!」
私が最後にそう締めくくって、本日の配信が終了する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます