第221話 村のアイドル、みたいな?
私の挨拶を皮切りにして、村の中心人物――主に獣人たちの自己紹介が続いていく。
兎人のラド、羊人のメリナード、竜人のドラゴ、そして蛇人のネイル。
彼らが登場するたび、画面の向こう側は大いに盛り上がっていた。ミノタウロスとの戦闘シーンが影響しているのか、とくにドラゴとネイルの人気は群を抜いているようだ。
《おじさまこそ至高》
《いまからお嫁にいきます》
《村長なにやってんの、今すぐ解禁しろ》
《村長無能すぎ、募集はよ》etc.
コメントを見ている限り、総じて女性層の需要が高いように感じる。なお私の評判は……。
「まあ……これも期待の表れ、みたいな?」
「村長、ドンマイドンマーイ!」
「っ! 村人が増えそうでなによりだ」
(椿たのむ、早くきてくれ……おっさん、もうダメかもしれない)
樹里には慰めの言葉を、そして武士に盛大な煽りをもらいつつ――、自己紹介の続きを眺めていく。今度はロアやベリトア、それにマリアたち女性陣が居並び、ひとりずつ簡単な挨拶を始めていた。
言うまでもなく、男性の支持が圧倒的多数を占めている。コメントもさらに加速しており、好意的なものばかりが目に付いた。
「こっちもすごい人気だな」
「ですね。少々過激な発言なんかもチラホラありますけど」
「まあ、それも想定の範囲内だ」
内容については差し控えるが、ネット特有の行き過ぎた発言も多々あった。けどまあ、そんなヤツらの忠誠度なんてたかが知れている。たとえ応募がきたとしても村人になれるはずがない。
それはそうと、村人の募集については近いうちに告知をする予定だ。詳しくは政府の特設ページを参照。加入の条件や事前手続きに関しては、ほとんど政樹さんチームに委託している。
「これで自己紹介タイムは終了でーす!」
時間が押しているのか、それとも焦らし作戦なのか。女性陣の紹介は意外と早めに切り上げたようだ。夏希の宣言により、いったん小休止に入る。配信画面も定点カメラに切り替わった。
――――
「樹里さんどうだったー?」
「バッチリよ夏希ちゃん!」
「はぁ、よかったー。たしか次って……ルド爺のとこだったよね?」
「ええ、まずは建築工事、そのあと道路工事、排水工事の順番よ」
「あ、そうだ。道路工事のときはさ――」
と、こんな感じで、その後も40分ほど配信が続いていく。職人のスキルを活かした技術だったり、魔法による土木工事だったりと、夏希のインタビューを交えながら進んでいった。
それと配信の後半には、政府公認のことにもしっかり触れている。
・敷地内への無断侵入を禁じること
・村に関する窓口は政府が担当すること
・政府専用サイトで募集を開始すること
室長の政樹さんたちも出演して注意をうながしていた。まあ、どこまで効果があるかは不明だけど……これでダメなら仕方がない。その都度適切に対処するまでだ。
「じゃあみんな、今日はこのへんで!」
おっと、どうやら初日の配信はこれでお開きのようだ。夏希が締めの挨拶を始めており、コメント欄も名残惜しそうにしていた。
正直、あっという間の1時間だった。
「あ、そうだった! 皆さんからもらったコメント、募集要件にも関わるから気をつけてねー。身元がバレちゃうかもよー。じゃあまたねー!」
と、最後に色々ぶち込んだところで――、今日の配信は終了となった。始まり方も凄かったが……終わりも大概だった。
◇◇◇
その日の夕方――、
生配信の成功を祝して宴会を開くことに。当然これもネタになるので、武士が各所を回りながら動画の撮影をしている。意外と裏方作業も好きらしく、率先して動いてくれていた。
「みんな、今日はおつかれさま。初日としては大成功だったと思うよ」
偉そうに言える立場じゃないけど、ひとまず労いの言葉をかける。
「いやー、何と言っても今日の主役は夏希ちゃ……じゃなかった。みんなのアイドル夏希ちゃんでしょう!」
「もう勘弁してよ桜さん! アレはあくまで営業用、需要と供給です!」
「そう? そのわりにはだいぶ板についてたけどなぁ」
私も桜の意見に同意である。もしあれが演技だというなら、それこそ本物のアイドルになれるんじゃないか? そんな言葉をかけようとしたら、先に冬也が突っ込んでくれた。
「ホント、さすがアイドル夏希だよな。普段とは全然ちが――」
「おい冬也、おまえはダメだ。あとで説教だからな、覚悟しとけ」
「え、夏希? なんでオレ……ええ……」
どうやら営業活動というのは事実みたいだ。つい調子に乗った冬也が、夏希の逆鱗に触れて硬直している。「夏希のヤツ、あんな低い声も出せるんだな……」と、地獄のような声色に、私もビビり散らかしていた。
これ以上、彼女の禁忌に触れてはいけない。それを察したのか、周りの誰もがこのことには触れなくなった。より正確に言うと、男性陣の誰もがだ。女性同士は全く気にせず会話を続けていた――。
「あ、そういえば村長ー」
ようやく場も和んできたところで、夏希が唐突に話しかけてくる。さっきのこともあり、思わず身構えてしまう。
「なんだ、俺はまだ何も言ってないぞ」
「違う違う、それじゃなくてさ……ちょっと鑑定してみてよ」
「鑑定って、夏希をか?」
「うん。先に言っとくけど、ほんとはすぐに言うつもりだったんだよ?」
何のことだかわからないが、とりあえず鑑定してみると――
………………
…………
……
夏希が本物のアイドルに変身していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます