第195話 久々の再会
「
「声はたしかにおじさん……でもその見た目どうしたの? なんかめちゃくちゃ若くなってるんだけど」
「ああ、これはアレだ。いわゆる異世界チートってヤツだ」
「っ! じゃあやっぱり、おじさんも異世界に行ってたんだね! そうじゃないかと思ってたけど――」
啓太は俺が若返ったことにずいぶん驚いていたが……異世界帰りということは把握していたらしい。
ある日、俺の家から風呂釜が消えたこと。1年経ったころに家電が突然無くなったこと。そのときPCがついていて、俺のステータス画面が表示されていたことが理由だと教えてくれた。
ちなみに俺が失踪して以降、自宅の掃除やら庭の手入れなんかを定期的にしてくれていた。ときおり家の中で変な音がしたり、物の場所が勝手に移動していたりと、心霊現象みたいなことも起こっていたんだと。
「なあ、そのあたりのことも含めて、爺さんも交えて話したいんだが……爺ちゃん、まだ生きてるよな?」
「うん、相変わらず元気にしてるよ。――爺ちゃーん! 啓介おじさんが帰って来たよー!」
「啓太、ひとまず家に上がっていいか? 今日は連れもいるから紹介したいんだよ。異世界でのことも話したいしな」
と、桜のほうを一瞥してから家へお邪魔することにした。
「はじめまして啓太くん。私、桜といいます。異世界では啓介さんと一緒に暮らしていました。よろしくお願いします」
「あ、ご挨拶が遅れてすみません。甥の啓太です。どうぞ桜さんもあがって下さい」
「ご丁寧にどうも。お邪魔しますね」
どうやら爺さんは居間にいるらしい。俺の声も聞こえてると思うんだけど……出迎えてくれる気はないようだ。ちょっと寂しい気もするけど、昔から肝の据わった人だったし、まあこんなもんか。
そんなことを思っていると、啓太がコソコソと耳打ちしてくる。
「ね、ねえおじさん。あのお姉さんて、もしかして恋人なの? まさか他にも……異世界ハーレムしちゃってるとか、ないよね?」
「恋人じゃないしハーレムでもない。今でこそ安定してるけど、最初の頃は結構大変だったんだぞ?」
「じゃあ他に女性関係はないんだね? それを神に誓って言い切れる?」
「いや……どうだろうな。誓う対象は神というか女神さまだが……少なくとも不誠実な行動はしてない、はず」
「そんな若い体を手に入れといて、すごく怪しいけど……。まあ、とにかくまた会えて嬉しいよ。お帰り、おじさん」
「ああ、ただいま。啓太も元気そうで安心したよ」
(異世界無双の話とかチート能力を聞く前に、いの一番で女性関係を聞いてくるとはな。そういうお年頃になったってことか? 知らんけど)
ふたりでヒソヒソ話をしながら居間へと向かう。すぐ後ろでは、桜が「全部聞こえてますよ」と口パクをしている。若干、顔がニヤついているのが怖いけど、見なかったことにしてスルーを決め込んだ。
そうこうしてるうちに居間へと到着。ふすまを開けると――、鎮座する爺さんの姿が目の前にあった。
「爺ちゃんただいま、ひさしぶりだね」
「啓介、向こうでも元気にしてたようだな」
「やっぱ全然驚かないんだな。爺ちゃんも元気そうでなによりだよ」
「啓太から色々聞いてたからな。生きてるならそれでいい」
前に会ったのは2年ほど前になるだろうか。相変わらず見た目が若い。いや、若すぎる。さすがに40代とは言わないが……50代後半と言われても受け入れてしまうほどだ。とても90歳には見えないし、俺が子どもの頃とほとんど変化がないようにも思える。
「ひとまず座って寛ぐといい。――んで啓介、隣の娘さんはおまえの嫁さんか?」
「この人は藤堂桜さん、異世界で知り合ってね。それから一緒に暮らしていたんだ。とても頼れる素敵な女性だよ」
咄嗟のことにどう説明していいか判らず、思いのままに紹介をする。
「はじめまして、藤堂桜です。残念ながらお付き合いはしていませんが、啓介さんとは良きパートナーだと思っています」
「ほお……そうかそうか、なるほど。桜さん、儂は祖父の
「はい、お任せください。……あ、あとひとり、椿さんという方とふたりでサポートしてるんですよ。今度紹介にあがりますね」
「ほほぉ、なるほどなるほど。お待ちしてますと伝えてください」
何を思っているのだろうか。ご満悦の表情で会話を交わすふたり。俺の横では、甥の啓太が肘でグイグイ突いてくるし……。だからハーレムじゃないっての。
そんな感じで賑やかな会話がしばらく続き、今日までの出来事を順を追って説明していった。
異世界に家ごと飛ばされたこと。桜や椿、ほかの日本人や現地の人たちと村を作ったこと。なんだかんだあって、女神さまを降臨させて戻ってきたこと。
どれもこれも突拍子のない話だが、うちの爺さんは平然とした態度で聞いている。普通なら、異世界というだけで怪しむものだが……話すことすべてを受け入れている。
疑っている気配はまったくと言っていいほど感じなかった。村にある蔵のことや見た目のこともそうだけど、この爺さんにはまだ秘密がありそうな気がしてきた。
一方、甥っ子の反応は抜群だった。異世界ファンタジー好きだけあって、身を乗り出すように質問攻めをしてくる。そのたびに、桜が誇張気味の注釈を入れるもんだから……結局、一区切りつくのに2時間以上かかってしまう。
「――さて、異世界の話はこれくらいにして、こっちのことも教えてくれないかな。ネットでは調べたけど、生の声を聞いておきたいんだ」
名残惜しそうな啓太をなだめて、日本の話題に移っていく。
爺さんの口ぶりでは、仕事も学校も、世間の日常は以前と変わりなく回っているらしい。むろん、魔物や魔石関連のせいで激変したこともあるが、普段の生活にはほとんど支障ないと言っている。
魔物による被害は農作物に集中しているようで、街中ではせいぜいゴミ漁り程度だと知る。村の被害も聞いたんだけど、魔物は近寄ってこないし、農作物は一度も荒らされてないようだ。
「山から下りてきて、村の近くまでは出てくるがな。こっちの姿を見るとすぐに逃げていく。襲われたこともない。だが……」
どうやら、魔物に手を出して返り討ちにあった人が何人もいるみたいだ。さすがに死人は出ていないが、大けがを負ったヤツが結構な数いるらしい。
それに対する世間の反応は様々で、「やはり魔物は危険だ」「一般人が手を出すべきではない」「行政による排除を徹底しろ」などの否定意見と、「怪我は自業自得だろ」「魔石は新たな資源、積極的に魔物を狩るべき」「自分から手を出して返り討ちとか(笑)」という意見もある。
「爺ちゃん、でもアレでしょ? 役場が魔石の買取をしてるんだよね」
「ああ、それなら啓太が詳しいぞ。なにせ、もう何匹も狩ってるからな」
爺さんはそう言いながら啓太に説明をうながした。
「んー。魔物の種類問わず魔石が1つ2千円。素材はもう少し安いかな」
「2千円か……なんか微妙な値段だな」
「そう? 数をこなせばいい収入になるし、レベルアップもついてくるんだから悪くないと思うよ?」
「そんなもんか? てかおまえ、人型のゴブリンとかよく倒せたな。俺も最初は相当きつかったぞ」
「あー、ね。オレがやってるのは兎だけ。ゴブリンはまだ無理かな、さすがに忌避感が半端ない。やっぱ小説みたいにはアッサリいかないよね」
(なるほど、その気持ちは良くわかる。いくら死体が消えるとは言え、最初の1体目が一番の難関だよな)
始めてゴブリンを倒したときのことを思い出す。あのとき、椿だけはケロッとしてたけど……俺や桜は結構精神的にやられた気がする。
「そういえば啓太、いまレベルアップって言ったよな」
「うん、それがどうしたの?」
「日本にも、レベルとかステータスを知る術があるのかなと思ってさ」
「あー、ないよ。でも、魔物を倒すと身体能力が向上するのは間違いないんだ。実体験してるし。それに一応、レベルの存在も公表されてるよ」
「帰還者の中には、鑑定スキルを持ってるヤツもいるのか?」
「いるらしいね。でも政府のお抱え状態だから一般人には関係ないね」
「なるほど……やっぱ囲われてるよなぁ」
現状、率先して魔物を狩る人はそれほど多くないようだ。銃刀法は変わらず施行されているので、携帯する武器も限られてくる。バットやバールは黙認されているが、街なかや人通りの多い場所で所持してると、普通に通報されるらしい。
田舎や町はずれの場所以外では、世紀末みたいな恰好の人は見かけないと言っている。逆を言えば、田舎はヒャッハーで溢れている可能性もあるわけだ。そう考えるとちょっと怖い。
「爺ちゃん、啓太。ふたりのことを信用して話すんだが……実は俺、鑑定スキルを持ってるんだ」
「おじさん、それマジ?」
「だからさ。今からちょっと鑑定してみてもいいかな?」
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