第196話 爺ちゃん、あんた何者なんだ?
爺ちゃんと啓太のふたりに対して、私が鑑定スキル所持者であることを打ち明ける。身内を勝手に探るのはどうかと思い、先に伝えてから試すことにしたのだ。
爺ちゃんの得体が知れないこともあり、正直、ちょっとビビっているところもある。まあなんにせよ、勝手に鑑定したのを見透かされて嫌われたくはない。
「――ってわけでさ。鑑定できることは秘密にしといてくれると助かるよ」
「おじさん、鑑定までやれちゃうのかぁ。村スキルとか女神特典もそうだけど……やっぱり完全にチート無双だよね?」
「チートなのは自覚してるけど、無双ってのは怪しいな。戦闘経験はあまりないし、技量の面ではかなり怪しいぞ」
「まぁそうかもしれないけどさー。それでもじゅうぶん羨ましいよ」
結局のところ、啓太は鑑定を望んでいた。一応、爺さんも頷いてくれたので、早速ふたりのステータスを見てみることにした。
啓太のほうは至って普通、レベルは3で職業やスキルはなし。結果を本人に伝えたらガッツポーズで喜んでいた。それより気になるのは爺さんのほうだ。レベルは1で、こちらも同じく職業もスキルもないんだが――。
ステータスに変な空欄があったり、所どころ文字化けしていたりでいろいろとおかしい。基本情報以外はほとんど判別できない状態だった。
(上位鑑定で見抜けないなんて……やっぱり爺さん、只者じゃないな)
それを正直に伝えてみたが、爺さんの反応は素っ気ない。表情ひとつ変えずに「そうか」の一言だけ。答える気がないのか、それとも知らないだけなのか。真相は不明だけど、やぶへびになりそうなので言及するのは控えておいた。
そのあと、日本における魔物の取扱いや、世間の対応について聞き取りをする。やはり一部では魔物狩りが流行っていて、レベルアップによる力の差が現れている。甥っ子の学校でも、スクールカーストが逆転してたりするらしい。
「――さて、日本の現状も結構知れたことだし、そろそろ本題に入りたい」
「それって、さっき話してた村人のこと?」
「ああ、今日はこの村の人たちを勧誘しに来たんだ。村人になれば結界で安全確保できるからな」
「職業とスキルが貰えるのも魅力的だよね」
「そうだな。それになにより、啓太も異世界へ行ってみたいだろ?」
「そりゃもちろんだよ! ……でも、なぁ」
と、嬉しそうな顔をしている半面、歯切れの悪い語尾で爺ちゃんの顔色をうかがう啓太。なんだろう? 爺ちゃんに遠慮でもしてるのだろうか。
啓太に視線を向けられた爺さんが、神妙な面持ちで返答をしてくる。
「啓介。誘ってくれるのは嬉しいが、儂らは異世界にはいけん。むろん、村人とやらにもなれん」
「え? いや、でもさ……今後魔物が暴走することだってあるし、一緒にいたほうが安全じゃない?」
「儂らは大丈夫だ。たとえそうなっても対処できる。というかアレだ。この村がそんな状況に陥ることはないから心配しなくてもいい」
てっきり誘いにのってくれると思ったのだが……。それにしても、異世界に行かないじゃなくて行けない、か。なんぞ行けない理由でもありそうな感じがする。
「爺ちゃん、もちろん無理にとは言わないけどさ。なにか行けない理由でもあったりするの?」
「悪いが詳しいことはまだ話せん。だが……そうだな。1週間後にまた来てくれ。ある程度のことは説明する」
この感じだと、爺ちゃんも異世界がらみで何かある、もしくは過去にあったのかもしれない。「異世界を知ったお前なら察しろ」と付け加えていた。ちなみに甥の啓太は、すでに事情を知らされているっぽい。口をモゴモゴさせながら、俺と爺ちゃんの顔を行ったり来たりしていた。
「わかったよ爺ちゃん。でも……せめてこの村の一部に結界を張らせてほしいんだ。またすぐ来れるように転移陣を置きたい」
「ああ、それなら一向に構わん。適当な場所にいくらでも置けばいい」
村人にならないと言うなら仕方がない。ひとまず近くの森に結界を張り、転移陣を設置することに決まった。ここなら誰も来ないし、まず見つかることはないと思う。
そのあと爺ちゃんは、俺が小さい頃の思い出話なんかを桜に語っていた。終始、和気藹々という感じで和やかな時間を過ごす。このあとホームセンターに寄ることを伝えると、車検に出しておいた車を返してくれた。預かってくれたことに感謝しつつ、村の人たちに挨拶をしてからその場を去った――。
◇◇◇
爺ちゃんの村をあとにして――
久しぶりのドライブを楽しみながら、来た道を戻りつつ車を走らせた。「助手席に女性を乗せたのなんて何年ぶりだろうか」なんてことを思いながら、若干、ハンドルを持つ手に力が入る。
自宅を通り過ぎてから、さらにそのまま30分くらい走ったところで繁華街へと到着した。ここも至って平和そのもの、魔物に荒らされた痕跡は一切ない。目的のホームセンターへ到着すると、さっそくお目当てのキャンプコーナーへと直行する。
一番大きなサイズのタープやテント、ブルーシートなどを購入。これならば魔法陣や貯蔵庫をなんとか隠せると思う。とはいえ、魔法陣が光るときだけはどうしようもないが……。
「目当てのモノは手に入れたな」
「はい。あとは店内を回りながら、必要な品を揃えておきたいです」
「そうだな。商品の流通とかも確認しつつ見て回ろうか」
「それにしても、周りが日本人だらけなのも久しぶりですよね」
「ああ、1年ちょっと前まではこの光景が当たり前だったんだけどな」
「転移当初は――、まさか日本に戻れるだなんて思ってもみませんでした」
「異世界での生活も悪くないけどな」
「それは私も同じですよ」
その後も店内を隈なく回ってみるが――思いのほか品揃えは悪くない。幻想結界の存在により、海外からの輸入は止まっているはず……なのだが、食糧や日常品が不足している気配もなかった。大量に買い込む人たちも見かけたが、在庫がなくなるほどではない。
店内を回っている途中、桜から、大豆類とか油類なんかは品薄だと聞く。食糧自給率については詳しく知らないが、中には当然、輸入に頼っていた品種もあるんだろう。
一番驚いたのは、大猪や大兎の肉が普通に売られていることだった。しかもかなりの人気商品みたいで、お値段もそこそこ高い。
成分検査とか安全性の確認とか、日本はめちゃくちゃ厳しいはずなんだけど……。まあ、私たちも普通に食べてるし、こっちでの扱いがどうだろうが構わない。この状況から見ても、日本は至って平和なことがよくわかる。
ちなみに、魔物対策の特設コーナーなるものが設置してあった。手に持てる長さの鉄パイプ、携帯用の警報ベル、ベニヤ板と薄鉄板で作った盾っぽいヤツの見本が置かれていた。
「凄いですね。全部売り切れとは……」
「ああ、かなりの高額なのにこの売れ行きか。思ってる以上に魔物狩りが流行ってるのかもしれないね」
「ナナシ村産の武器とか、きっと飛ぶように売れますね」
「あれは銃刀法で捕まるんじゃないか? 知らんけど」
「例の冒険者制度に伴って、そのへんの事情も緩和されるそうですよ」
「現代社会に剣を持つ冒険者か……いや、魔物がいるならあり得るよな」
「まさに現代ファンタジー的な?」
結局、飲料水や日持ちする食品、野菜の種なんかを追加購入したところで、財布の中身が空っぽになった。
キャッシュコーナーで預金が下ろせるかを試したら、普通にできた。民法上どうなのかは知らないが、まだ死亡者扱いではないらしい。ほかの転移者もたくさん戻ってきてるし……まあそんなもんかと思っておく。
(こりゃあ、銀行に行って現金化しとかないとダメだな。カードだと足がつくし……って、ここで利用しちゃったし今さらか)
ひとまず上限まで下ろしてからホームセンターをあとにする。
「桜、ちょっと早いけど、繁華街で夕飯でも食べよう」
「はい。あ、ついでに女性ものの衣類を買ってもいいですか?」
「もちろんだ。好きなだけ買ってくれ」
繁華街に向かって運転しながら、「まるでデートみたいだな」なんて少し浮かれ気分のおっさんであった。
こういうときは、得てして何かが起こる予兆だとも知らずに……。
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