第175話 王国村長……発見?


異世界生活450日目-396,289pt


 女神の街ナナシアの発足から早くも1か月が経過していた。


 あれ以来、開拓民の忠誠度もじわじわと上がっていき、多くの者が村人になってくれた。このまま順調に行けば、全ての民が村人になるのもそう遠くないところまで来ている。


 懸念していた村人と開拓民の確執も……「まあこんなもんだろ」って感じ。個人の価値観が違う以上、好き嫌いはどうしたって避けられないからね。少なくとも、物騒なことには発展してない。

 そもそも忠誠とは忠誠なので、住民同士の確執とは直接関係ないのだ。全くないとは言わないが、私が露骨な差別をしたり横柄な態度をとらなければ、そうそう下がることはない。

 

 一方、街の各施設は7割程度が完成した。学校や役場なんかもこちらへ移しており、ほとんどの業務は街のほうでおこなっている。「おい、村はどうしたんだ? もう寒村なのか?」、そんな言葉が聞こえてきそうだが……むしろ逆だ。

 農業はもちろんのこと、新たな産業である酒造りも村でやってるし、酒好きの連中が毎日覗きにいくもんだから、夕方近くなるとお祭り会場と化している。

 どうせすぐ収まるだろう、そう思っていたんだが……この調子だとまだまだ続きそうである。まあ、「これが俺たちの生きがいなんだ!」なんてことを言われては仕方がない。酒造りが軌道に乗るまでは放置を決め込むことにした。




◇◇◇


「どうやらここもハズレのようじゃ。近くに廃村は見つけたが、村長の家らしきものは無かった。むろん結界もしかりじゃ」

「ドラゴ、それにドリーたちもおつかれさま。でも海は近いんだろ?」

「うむ、ここ最近は海沿いのダンジョンばかりじゃな。確実に近づいておるんじゃろうが……」


 この1か月、もうひとりの村長探しをずっと続けている。

 

 運がいいのか悪いのか。かなり初期の段階で、王国の首都近辺にあるダンジョンを引き当ててしまった。ドラゴやネイルたちが1階層に転移すると、人族の冒険者パーティーとばったりご対面したらしい。幸いにも戦闘にはならず、警戒はされたが一応の話し合いはできたそうだ。

 冒険者の情報によると、ここはいわゆる不人気ダンジョン、立地が悪すぎて通う者もほとんどいない。自分たちはギルドからの依頼で、周辺に湧くオーク討伐の途中で寄っただけと言っていた。


 それを聞いた私はすぐに結界を張りに行った。こうしておけば誰も侵入できないし、次に来たときの安全性も高まるからだ。念のため、ダンジョンの各階層で探知スキルを使わせたが、誰もいない感じだったので……たぶん取り残された人もいないはずだ。



 と、そんなこともありつつ、捜索を開始してから2週間ほど経った頃、ようやく北の海を発見。それ以来、私も毎日同行してダンジョン入り口に結界を張りながら回っていた。


「相変わらずオークの数はすごいのか?」

「そうじゃな。冒険者ならともかく、一般市民ではどうにもならん程度には徘徊しておるぞ。ここはもう、人が住める場所ではないのぉ」

「なら、少なくとも結界は張ってあるだろうな。もう死んでる可能性もなきにしもあらずだが……」

「いっそのこと、海沿いを飛び続けるというのはどうじゃ? 多少の危険はあるじゃろうがな」

「ん-、それはやめておこうよ。順調に近づいてる感じだし、このまま続けたほうが良いと思う」

「お主ならそう言うと思った。よし、昼飯にはまだ時間があるでの、もう一か所回ってくるとしよう」


 いまは切羽詰まった状況でもない。安直な行動は避け、地道に次を探すことに決めてダンジョンへ戻っていった――。


 結局そのあと数か所のダンジョンを封鎖して、本日最後となる場所を調査しているとき――ようやくお目当てのモノを発見する。


 戻って来たドラゴの手には何冊かのライトノベルが……。私も愛読していたタイトルなので、日本のモノなのは間違いない。当然、文章も日本語で書かれていた。



「ついに見つかったな。でもこれ、どうやって持ってきたんだ? 結界の外に捨ててあったとか?」

「それなんじゃが……結界はおろか、お主に聞いた風な家すらなかった」

「それってどういうこと?」

「あばら家が3軒、その1つにこの類の書物が大量に放置してあった。家の中はもちろんじゃが、周囲にもひと気は全くない状態じゃ」

「――とすれば、どこかへ移動したってことか。いや、家もないなら空間収納? それか、村長が死ぬと家もなくなるとか……?」

「じゃがの、人が死んだ痕跡は一切なかったぞ。争った跡も皆無じゃ」


 やはり、どこかへ移住したと見てよさそうだな。移動した時期にもよるけど……現場が荒れてないなら、そこまで遠くへは行ってない気がする。


「なあ、今からその場所へ連れてってくれ。もちろん調査はしない。現場保存のために結界だけ張っておきたい」

「承知した。これからすぐに向かうかの?」

「いや、斥候のレヴと香菜を呼ぶよ。ドリーたちも呼び戻して、近くまで運んでもらうつもりだ」


 結界を張っても良かったが、目立ちまくるし、相手の張った結界に相殺される可能性もある。近くにいることを想定して、探知と隠密をフル活用、最大限の警戒をしながら現地へ向かうことにした。



 それからしばらくして、無事に現地へと到着すると――


 ドラゴの言っていたとおり、簡素な家が3軒建ち並んでいた。一見すると、そんなにくたびれた風には見えない。まあ、ルドルグが建てた家と比べれば、ずいぶん頼りない感じだけどね。


 なお、家の周囲はきれいに整地されているが、草木は伸び放題、畑らしき場所も見当たらなかった。何と言えばいいんだろう。生活感がまるでない感じだった。


 仮に引っ越したとしてもだ。焚火の跡だったり炊事場だったり、それこそトイレくらいはあってもいいと思うんだが……。それらしい形跡は、なにひとつ残されていない。


『よし、ひとまず場所は確認できた。これ以上進むのはやめよう。今から結界を張るから周囲の警戒を頼む』

『村長、探知スキルは異常ありません。聴覚強化も反応なしです』



 それからすぐに結界を張ると――、余計なことは何もせず、その場から逃げ出すように帰還した。


 


◇◇◇


 その日の夕方、さっそく主要メンバーを集めて今日の報告をおこなっているところだ。


「――ってな感じだったんだが……みんなはどう思う?」


 結界もなく日本風の家もない。畑すらなかったし生活感をまるで感じない。そんな村とも言えないような空間があり、唯一の証拠はドラゴが見つけてきた書籍数冊、その本をテーブルに置きながら説明を終えた。


「現地を見ないとわかりませんけど、死んだってことはないと思います。結界があるなら、よほど油断しない限り安全ですから」

「でも桜ちゃん、仲間に裏切られて……って可能性もあるんじゃない?」

「春香さんの言うとおり、その可能性はありますね。けど、もう1年以上生き延びてるわけですし、そのあたりのリスクは対処してるんじゃないかと」

「あー、たしかにそうよね」


 今日はあくまで情報共有が目的だ。あとは実際に現地を見てみないとわからないので、どこまで言っても推測の域を超えることはない。


 そのあとも様々な意見が飛び交うなか、持ってきた書籍をパラパラと捲っていた秋穂がポツリと――。


「この本……どう考えてもおかしい」


 突然そんなことを言い出す秋穂。私には普通の本に見えるが、いったい何がおかしいというのか。


「私このタイトルをずっと追ってたけど……絶対こんなとこまで進んでない。……それにココを見て」


 そう言いながら巻末部分を指さしている。


「この巻が発行されたのは3か月前になってる。そんなのがこの世界に存在するはずないよね」











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