第174話 蛇人特性と酒造り


異世界生活423日目-151,151pt



 ナナシア開国を祝うお祭りも、今日で3日目の最終日を迎えていた。


 開国なんて仰々しく謳っているが、ここには城もなければ王もいない。騒いでいるのは一部の連中だけだ。とはいえ、せっかくの祭りに水を差すのも無粋なので好きなように呼ばせている。


 

 今回村人になった蛇人たちも、先人たちとの交流に積極的だった。人生初となる他種族との交流に戸惑いをみせつつも、早く馴染もうという気概が前面にでている。

 ずっと地底で暮らしていた彼らにとって、この光景はまさに異世界そのもの。そんな不安と好奇心の狭間に揺れながら、祭りを楽しんでいるように見えた。


 それとこの蛇人たち、ウワバミの言葉通り酒が大好きな種族だった。ケーモスで買った物と自分たちで作った物を飲み比べながら、酒好きの連中たちと意気投合していた。酒造りの技術を持っているので、街の新たな産業として是非とも取り入れたいところだった。



「やあスネイプニル、楽しんでるかい?」

「どうした村長? それと私のことはネイルで頼む、親しい者は皆そう呼んでいる」

「すまんすまん。それでネイル、部族の様子はどう?」

「とてもいいな。呪いも解け、こうして地上への帰還も果たされた。これで文句があったら女神の罰が下るというものだぞ」

「そっか、種族的な要望なんかがあれば早めに言ってくれよ。我慢する必要はないからな」

「うむ……ならばやはり酒、だな。酒造りを我らの仕事にしたい。ここの穀物を使えば最高の酒ができるはずだ」

「おお、それはいいね。待望の職人がきてくれて嬉しいよ、酒造りができる人材をずっと探してたんだ」

「ならばよかった。我ら一族、必ずや期待に応えよう」


 村で作る最高品質の穀物、とくにあの芋を使えば極上の仕上がりになると熱弁していた。私はよく知らないが、芋焼酎っぽいものが出来るんだろうか? まあなんにしても、完成する日が楽しみである。



「ところでさ、蛇人って何か特殊能力みたいなのはあるのか? たとえば熱感知とか毒攻撃みたいな」

「毒? というのはないが、熱源を感知することや、そこから対象の感情をある程度読み取ることはできるぞ」


(ほほぉ、いわゆるピット器官的なものだな。でも感情ってのは……心を読めるのかな?)


 ネイルの説明によると、周囲30m程度の熱感知が可能、感情に関しては喜怒哀楽程度のざっくりとした心情を読める。言い伝えによると、彼らの祖先は遠く離れた相手同士で意思疎通をもとれたらしい。恐らくは念話に近いものだと推測する。


「相手の嘘を見抜く場合や、互いの求愛表現に便利だぞ。村長と最初に会ったときにも使っていたな」

「なるほど――。でもなんかアレだよな。浮気……とかもすぐバレちゃいそう。ネイルは大丈夫なのか?」

「蛇人族の番は生涯ただひとり。浮気という概念は持ち合わせておらん」

「それは素晴らしいことだね。今度街のみんなにも伝えておくよ、うっかりやらかすヤツがでるかもしれん」

「それが村長でないといいがな、はははっ」


 そんな冗談を交えつつ、今後の生活や仕事のこと、ダンジョン最下層の警備なんかを話し合っていく。


 もぬけの殻となった最下層、余程のことがない限りはそこまで到達できるヤツはいないだろう。それでも、万が一を想定して毎日のパトロールを担当してもらうことに。今後は、酒造をメインとして農業や各種産業を任せ、戦闘職はナナシ軍への加入が決まった。

 

 蛇人族の加入で村人の数も一気に増えたし、魔物討伐による信仰ptの増加も見込める。さらに先日、女神へのお供えボーナスも判明したところだ。椿が試算した一日の獲得ptは1万を超えるらしいので、女神降臨までの期間はぐっと短縮されたことになる。

 いよいよもって、私たちの異世界ファンタジーも終盤を迎えようとしている。もちろんその先もあるのだが……ひとつの終着点、物語で言えばエンディングみたいなもんだろう。


 


◇◇◇


 その日の夕方――


 三日三晩続いたお祭りも大盛況のうちに閉幕、今は街を代表するメンバーで後夜祭っぽいことをしている最中だった。村にある食堂に移っているので、ここにはほかの村人はほとんどいない。


 私を始め主要な日本人メンバーに加え、ラドやメリナード、それに領主のドラゴと蛇人のネイルがひとつのテーブルを囲んでいる。どの人物も、これまでとこれからを支える重要な者ばかりだ。



「啓介さん、今回のお祭りは大成功でしたね。蛇人もそうですけど、開拓民との交流も上手くいったと思いますよ」

「わたしもちょくちょく鑑定してたけどさ、みんな忠誠度が上がってたよー。今度の認定式はすごいことになるかもね!」


 みんなで祭りの余韻に浸っていると、桜と春香がそんなことを切り出してきた。


「やっぱり大勢が集まると違うよな。これからもたまに親睦会みたいなのがやれたらと思ってるよ。もちろん強制はナシでね」

「今後は定休日もできるんでしょ? 面白そうなイベントとかも考えないとだねー」

「一応、日本の娯楽を再現できないか思案してるところだよ。そのへんは巨匠夏希に一任してあるぞ」

「うんむ。異世界あるある系の手遊びとか、遊具なんかも作ろうと思ってますよー。まあ、この世界の人たちにウケるかは怪しいけどね」


 みんなからの提案で、労働サイクルを週休3日制度に切り替える予定だ。全休日を増やすことで人同士の交流を深め、娯楽要素を盛り込んだイベントを定期開催する予定をしている。



「なあ村長、娯楽もいいけどさ。他の国への対応は大丈夫なのか?」


 話題が一区切りしたところで今度は冬也が話し出す。何か気になることでもあるんだろうか。


「それって防衛面のことを言ってるのか?」

「ここには結界があるし、無視しても問題ないとは思うけどさ。こっちから先手を打つ気はないのかなって」

「んー、ひとまず侵略とか戦争はありえんな。このまま静観を続けるつもりだ。あ、でも気になってることがひとつだけある」

「それって隆之介のことか?」

「いや、アイツはもうダメだろ。遠くないうちに逃亡、もしくは追放されるんじゃないかな。獣人国には居場所がない気がする」

「じゃあ帝国のことか? 王国はさすがに遠いし……他に気になることって、なんかあったっけ?」


 少し前から考えていたんだが……ちょうどいい機会だと思い、ここにいる全員に向けて自分の考えを伝えることにした。



「俺が気になるのはだ。王国の最北端にいるってヤツ。できれば一度会ってみたいし、最低でも鑑定くらいはしておきたい」

 

 オーク領域に隔離されてるとはいえ、結界を利用すればいつでも脱出できると思う。それに私とは違う能力を持ち、独自の進化を遂げている可能性も少なからずある。藪蛇になることも考えたが、このまま未知の存在として放置するのはマズいと感じていた。


 結界の対消滅や村人への干渉など、ナナシアを脅かす唯一の存在になるのではないか、ヘタすると既になっているかもしれない。そんなことを淡々と説明していく。


「――なるほど、村長が言うと説得力あるな」

「たまにある村長のひらめきって、けっこう当たるもんねぇ」

「たしかにそう言われると気になります。でもどうやって調査するんですか? こことは正反対の場所ですよ?」


 冬也と夏希に続き、桜からの疑問に答える。


「ああ、それは蛇人の村経由で行こうと考えてる。今日はその確認もしようと思ってたんだ」


 ネイルを見ながらそう言うと、ほかのみんなの視線も一斉に集まる。


「もちろん可能だ。王国とやらの領地がどの場所かは不明だが……地上に出られる今ならば調査することもできる。転移陣の発動と調査は我ら蛇人族に任せてくれ」

「ならば儂も同行するかの。地上に出れば上空からの偵察が可能じゃ、目星を付けるまでは儂ら竜人と蛇人が担当しよう」


 地底の覇者と空の王者、このコンビならば申し分ない。必ずや成果を出してくれそうだ。


「それはありがたい。じゃあまずは場所を特定すること、そのあとは最高戦力で挑もうか。私もその間に帝国聖女から情報を仕入れてくるよ」

「冬也くん、私たちはナナシ軍の強化と再編を。いつでも現地へ送り込めるように準備しましょうか」

「了解です桜さん、決戦に備えて万全の体制を作りましょう」


 こうして、もうひとり存在するという村長の調査計画が決定した。


「おいおい……今回はあくまで調査と交流が目的だぞ? 備えは大事だけど、先走るのだけはやめてくれよ?」



『村長vs村長』なんてのは御免だけど、相手の思惑によっては十分にあり得る話でもある。暢気なヤツならいいのだが……ここにきてひと悶着、ましてやラスボス案件とかはやめて頂きたい。













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