第171話 蛇人族の勧誘


「――さて、今日の主旨もハッキリしてるし単刀直入に聞くけどさ。蛇人族みんなで地上に来ないか? 村人として一緒に生活して欲しいんだ」



 そう切り出すと、族長は悩むそぶりも見せずにこう返してくる。


「ナナーシア様のお言葉によれば、いまはもう違うのだろうが……。地上に上がれば我らは死ぬと、代々そう伝わってきた。おいそれと皆を危険に晒すことはできない」


 そりゃそうだよな、なんて思っていると、


「よって、まずは我らだけが地上に出向こう。それで死ななければよし、死ねばそれまでとする。人選は――忠誠度だったか? この中で村人になれる者を教えてくれ」


 決意はすでに決まってるらしい。「この3日間、一族全員で話し合った」と付け加えていた。


「なら今日のところは、村人になれるかの確認だけにしよう。万が一にも、誰かが死ぬようなことは避けたいからね」

「だがしかし……遅かれ早かれ、地上に出て確認せねばなるまい?」

「実はな、ほかの手段もあるにはあるんだ。私のスキルを強化すれば、ダンジョンの中でも結界が張れるようになる。絶対とは言えないが、地上へ出るよりかは安全に確かめられるはずだよ」


 たぶん……いや間違いなく、蛇人たちの忠誠度は高い。呪いも解け、地上に出れると証明されればなおのことだろう。これから村人になる相手に対して、能力強化を出し惜しみすべきではない。


「そうか……そのスキルの強化とやらは、無条件に何度もできるものなのか? むろん、言えぬのであれば答えなくても構わないが……」

「まあ、ぶっちゃけ言うとあと1回だ。けど今後も増える可能性があるんだ、そちらが気にする必要はまったくない」


 スネイプニルは少し間を置くと、「しばらく時間をくれ」と言い残してほかの蛇人たちと話し合いを始めた――。

 

『なあ村長、ほんとにいいのかよ。可能性って帝国勇者のことだろ? いつになるのか、そもそも村に来るかもわからんのに』

『こっちからの誘いなんだ。さすがに黙っているわけにもいかないさ。向こうにしてみれば、まさしく死活問題だしな』

『まあそうなんだけどさ……』

『こんなときのために残しておいたんだ。ダンジョンでの安全地帯も確保できるし、一石二鳥だろ?』



 ――結局のところ、今日は忠誠度の確認をするだけに決まる。蛇人たちも、この件を持ち帰って再度話し合いをするつもりなのだろう。「ダンジョンを村化するのはまた後日にしてくれ」と言ってきた。


 なにはともあれ、ひとまず居住の許可を出して数値を確認していく。


 最高値が族長の85、ほかの6人も70~80の間に収まっている。ここにいる全員が『村長にかなり高い信頼を置いている状態』だ。白蛇の鱗に始まり、私が使徒っぽいことや女神像のことが要因だと思われる。

 

「よかった、全員村人になれるよ。それでどうする? また今度会うときに許可を出せばいいし、ひとまず解除しとこうか?」

「いや、そのままにしてくれ。……何かの恩恵を受けれるかもしれん」

「なるほど? まあ、あるのかもしれないね。知らんけど」


 一度でも結界の中に入らないと村人認定はされないと思うが……別にデメリットはないからそのままにして別れることになった。



「では啓介殿、我らは先に戻るとしよう」 

「また会おう、いい返事を期待してるよ」

「そうだな、我らも村人になる日を楽しみにしている。では、さらばだ」


 蛇人たちは足早に動き出すと、転移陣を発動させて戻っていった。



「さて――、蛇人たちも前向きに考えてるようだし、まずはやれやれってところだな。次に会うのは2週間後だから、そのときもよろしく頼むよ」


 蛇人を見送ったあとは、25階層にとどまって話をしていた。このまま狩りに行くのか、それとも今日は戻るのかを決めかねているところだ。


「無事に呪いも解けて、一緒に暮らせるようになるといいですね。村の戦力としても申し分ないですし、つい期待しちゃいます」


 桜もホッとした表情でそんなことを言っている。


「そういえば村長、オレたちそろそろ、開拓地へ引っ越そうかと思ってるんだ。なぁ秋穂?」

「うん。なっちゃんも街で開業したいって言ってるよ。私も医療班として活動しやすいから賛成してる」

「人もかなり増えたし、蛇人が来るならいい機会だと思ってさ。敷地も広いから、軍の訓練もやり易い」

「そうか――まあこの際、みんなで移住するってのもアリだよな。村は農地や牧場、工場として利用すればいいし、家の引っ越しは……メリナード、一軒家ならイケるんだよね?」

「はい、問題ありません」


 メリナードの空間収納Lv4なら、長屋や工房は無理にしても、家ごと収納できることは確認済みだ。川の水流を利用しているので、脱穀施設や染物工場は動かせないが、ほかの作業は街でもやれる。

 いずれは街へと発展して、そっちがメインになっていく。今のうちから生産施設を移しておくのが得策かもしれない。


「よし! そのへんの話もじっくりしたいし、今日は私たちも帰ろうか」


 皆も同意しているので転移陣を発動させて1階層に移動、そのまま地上にでると、近くにある転移の魔法陣に向かってゾロゾロと歩き出す。


 だがそのとき――


 突然背後から声がかかる。ここはもう結界の中だったので、こちらは完全に油断している状態だ。


 驚いて振り向くと……数名の村人? いや違う、こんなヤツら見たこともない。そんな見知らぬ集団が私をじっと見つめていた。


「誰だお前ら、なんで結界の中にいる……。それに、なんであいつ等の装備を……」


 目の前にいる人族は、蛇人たちの装備を奪ったのか、全く同じものを身に着けている。他のメンバーが臨戦態勢に入るなか、私もすぐさま鑑定をかけて正体を確かめた――。



「なっ!? おまえたち、さっきの蛇人なのか? いやでもその姿は……」

「啓介殿、私だ、スネイプニルだ! ダンジョンから出た瞬間、突然この姿に変わったのだ。まさかあの言い伝えすらも本当だったとは……」


 腕の一部や頬のあたりに白い鱗がついているけど、どう見ても人族にしか見えない。あとは――、レベルが少し下がっているのとスキルが一部変更されてる? でもたしかに族長だし、村人の表記もされていた。



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スネイプニル Lv119

村人:忠誠93


スキル

槍術Lv4

超回復Lv4

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「おい、ちょっと待ってくれ。聞きたいことは山ほどあるけど……おまえら、自分の村に戻ったんじゃないのか? どうしてここにいるんだよ」

「……それについてはすまぬ。決して騙したわけではない、本当だ」

「いや、別に責めてないし疑ってもいない。死の危険があったのにどうして? って意味だよ」

「先の件で、お主や村に迷惑をかけそうだったのでな。そしてなによりも――この呪いは本当に解けるのか、我らは地上に戻れるのか。その真実を一日でも早く知りたかったのだ」



 それからしばらく、地上に出たときの状況や言い伝えとやらの話を聞くことになった。


 ダンジョンを出て結界に触れると、すり抜けた腕が一瞬で変化したらしい。族長自ら結界をくぐると、全身が人族のように変化した。侵食していた痣も消えて、体中から何かが抜けていくような感覚に陥った。


 そして言い伝えによると、蛇人族はかつて人のような姿をしていたんだと。今の族長たちからしてみれば、おとぎ話程度の認識らしいが……それが現実となったので、腰を抜かすほど驚いたようだ。


「まあ、無事ならいいんだけどさ。遠慮する必要なんか……いや違うよな、私の配慮が足りなかったよ。危険な目に合わせて申し訳ない」

「それについては何も問題ない、すべて我らの独断だ。女神さまはもちろん、村長のことも信用している」


 スネイプニルはそう言ってくれたが――とにかくこうなった以上は、あれこれ言ってもしょうがない。すぐに春香を呼んで鑑定をしてもらうと、7人とも呪いが解除されていることが証明された。

 ただ族長を初め、ここにいる蛇人のレベルは1割も下がってない。女神の話では、月の女神の加護が消えると極端に下がるはずなんだが、どういうことなんだろうか。


「なあ、乗り掛かった舟じゃないけど……このまま村へ来ないか? 一族に説明するのにも役立つと思うんだ」

「是非とも案内してくれ。お主らの街とやらも見てみたいし、結界の外に出れるのかも確認しておきたい」

「よし、それじゃあみんなで戻ろう。そしてようこそナナシ村へ、新たな村人を歓迎するよ」



 すったもんだあったが――


 こうして無事、蛇人族を迎え入れることになった。












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