第168話 世界の秘密(1/2)


異世界生活396日目-111,121pt



 翌日、朝食をいただくついでに食堂で手荷物を預かる。久しぶりの再会に手ぶらというのも悪いので、村の手料理を持っていく予定だ。

 初回は突然の出来ごとだったので、実質、今回が初めての正式訪問となる。向こうに運べるのかは不明だけど、なんとなくいけそうな気はしていた。



 出発の準備も整い、冷蔵庫に向かって仁王立ちするおっさん。その背中には夏希がガッシリとしがみ付いていた。出発の直前、「わたしも一緒に行きたいっ」と駄々をこねだしたので好きにさせている。


「じゃあ行ってくる。向こうでも村の様子は見れるからね、何かあればすぐ戻るよ」

「はぁ、緊張するーっ! わたしも向こうに行けるかなぁ」

「それはどうだろうな、もしついて来れても大人しくしてろよ?」

「わかってるって! じゃあみんな、行ってくるねー!」


 見送りメンバーに手を振る夏希をよそに、冷蔵庫の扉をそっと開けた。




◇◇◇


「相変わらずここは真っ白だな――って夏希は……やはりダメだったか」


 なんとなく予想はしてたけど、後ろを振り向いても夏希の姿はどこにもなかった。今頃きっと、ガックリ肩を落としてボヤいているんだろう。どうやらここは、私以外は来れない場所みたいだ。


「だけど手荷物は持ってこれるんだな。ってそれよりも、女神さまはどこにいるんだ? お出かけ中、なのかな?」


 この前同様、パソコンデスクと冷蔵庫はあるのだが、肝心の女神さまは不在のようだった。このままボケっとしてるわけにもいかず、モニターの前まで行ってポイントが消費されているかを確認してみる。


「うわ、やっぱり減るんだな……とりあえず『世界の秘密』を解放しとくか」


 モニターを操作して50,000ptを消費すると――女神がいないからなのか、いつものアナウンスが流れてこない。ただ不思議なことに、解放した瞬間から所持ポイントの減算はピタリと止まっていた。


 

『よくぞお越しくださいました。私は女神ナナーシア。あなたの望むことをなんでもお教えいたしましょう』


 荘厳な演出と共に、ナナーシア様が天から舞い降りてきたのだが……。真っ白な天井からニョキッと足が生え、徐々に全身が具現化していく様は……正直不気味な感じがした。



「どうもお久しぶりです、啓介です」

「……ご丁寧にどうも。女神です」

「えっと、いきなりの質問で申し訳ないのですが……今の登場って何か特別な意味があるのでしょうか」

「いえ、気にしないでください。恩恵が解放された場合の決まり事なんです。私に拒否権は与えられていませんので……どうか忘れてください」


 どうやら、正規の手順で女神の間に来た場合の演出らしい。さっきまで不在だったのも、コレをやるためだったと教えてくれた。女神も本意ではなかっただろうし、私もこれ以上話題に出すのをやめた。


「それとすみません、勝手にパソコンを使わせてもらいました。今日は『世界の秘密』を知りたくて伺った次第です」

「ええ、昨日のやり取りは全て聞いてましたよ。今日はポイントも消費しないのでゆっくりしていって下さいね」


 女神さまはそう言いながら、私の手元をガン見している。村から持ってきた手土産が気になってしょうがないようだ。すぐに献上すると、PCデスクの前に座って中身を広げだす。いつの間にか2人掛け用のソファーも置かれている。



「昨日から楽しみにしていたんですよ! さああなたも隣へ。食べながらゆっくり語り合いましょう!」

「では失礼します。ところで女神さまって、普段から食事をなされるんですか? 神様って食べなくても平気なイメージがありまして」

「食事の必要はありませんが、献上されたものには神力がふんだんに含まれています。――ちょっとモニターを見ててくれますか? モグモグっ、うっまっ!」


 女神はそうおっしゃると、さっそく芋を食べ始める。


「なっ、ポイントが……増えた……だと?」


 女神さまが頬張るたびに、信仰ポイントが100pt刻みで上昇している。『女神の恩恵』の説明には、こんなの書かれてなかったはずだが……。


「ちなみにですけど、冷蔵庫に入れといてくれたら勝手に転送されますので、毎日頂けると嬉しいです。もちろんポイントも上がりますよ!」

「これは凄いですね。――えっと、これも世界の秘密なんですか?」

「厳密にいえばそうですね。解放してくれたからこそ話せる内容ですよ」

「なるほど、これを聞けただけでもここへ来た価値がありました。これからは毎日欠かさずお供えしますね」


 女神さまとペアシートに並んでパソコンを見るおっさんの図。まるでどこぞのネカフェにでも来たような錯覚に陥るが……ここは間違いなく女神の間だ。頃合いを見計らい、今日聞きたかった質問を始めることにした。


「大丈夫ですよ。さっきも言いましたけど、昨日の話はすべて聞いていました。質問の答えも、モニターに映し出されるように準備してあります。じっくりひとつずつ見ていきましょう」


 今日はやけに段取りがいい。でもだからこそ怪しく感じてしまう。


「あの……なんか今日は、すごくサービスがいいですね。疑うわけではないんですけど、あとで追加料金とか発生しませんよね?」

「もちろんです。今日は終日無料ですので安心してください」


 この会話だけ切り抜くと、ちょっといかがわしく聞こえてしまうが……まあいい、無料と言うならゆっくりさせてもらおうじゃないか。そう思いながらモニターに注視して、『世界の秘密』を閲覧する。



<世界の歴史>


・この世界には太陽(光)と月(闇)の女神、そして大地の女神の3柱神が存在している。女神は世界の管理者であり、下界に直接的な介入は許されていない。


・はるか昔、大陸の東半分を月の女神が、西半分を太陽の女神が管理、そして大地の女神は大陸中央の大山脈を管理していた。このころはまだ、大陸を分断するように大山脈はそびえておらず、中央に大きな山がそびえ立つだけだった。


・東には獣人族、西には人族、中央の大山脈には竜族が住んでいた。それが今から1200年程前、月の女神が管理していた大陸の東側で異変が起こり始める。地上に湧く魔物の種類が増え、より強力な魔物が出現するようになったのだ。その原因はもちろんダンジョンの攻略である。


・大昔、ダンジョンは神聖な場所であり、かつ危険な魔物が住まう国ということで、両国の盟約により立ち入ることを固く禁じられていた。しかし獣人側はその盟約をやぶり、密かに侵入して魔石や食糧を得ていた。

 地上に出て来た強力な魔物の影響で、大陸の東、その東部から徐々に侵食され、生活圏は西へ西へと移動、最後は人族領へ逃げるしかなくなったのだ。


・この現状を憂いた大地の女神は、大山脈を隆起させて大陸の東と西を完全に分断する。月の女神は獣人が持つ種族特性の力を弱め、おいそれとダンジョンに入れないように対処。太陽の女神は人族の王に対し、「大陸西側の南半分を獣人に分け与えるように」と神託を施した。


・本来、神が世界に干渉することは×××により禁じられており、その罰として3柱神の力は長い間失われることになった。これが約1000年前のことである。とはいえ、結果的には人族と獣人族のバランスは均衡しつつ、ダンジョン深層攻略には至らない状態がとれ、しばらくの年月、平穏な世界が続いていった。



「――なるほど、そんな過去があったんですね。獣人族は1000年前に滅びかけたと……いまの大山脈ができたのもそのときだったのか」

「私たち女神は、神力のほとんどを失いました。それを取り戻すのに1000年、ちょうどあなた方が召喚されたころまで――」

「召喚……ってことは、日本人を転移させたのは女神さまだったと?」

「はい。厳密には私以外の二神が、ですけどね。でもその話の前に、この1000年間のことを先に聞いてください。まだ続きがありますので」



 これでやっと1000年前か。


 ここからは、過去の勇者や戦争の話になるのかな? 転移の理由も気になるけど……しばらくは女神の段取りに従ってみよう。








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