第167話 女神の街ナナシア、構想計画


 開拓地に到着してから既に2時間が経過していた――。


 ちなみに、昼休憩どころか昼飯のときも一切休めてない。なぜならば、樹里が食堂に現れ、食べてる最中もずっとしゃべり続けていたからだ。彼女曰く、早く話したくて我慢ができなかったらしい。


 椿と桜のふたりは、すでにお腹いっぱいという感じ。昼食が済んだところで自分たちの仕事に戻っていった。私はもう慣れちゃったし、先生の話が聞けるんだから何も問題ない。


「以前の反省を活かして手短にしたつもりなんだけど……ちょっとしゃべり過ぎましたかね?」

「そんなことないんじゃない? 私としては実に興味深い内容だったよ。もう一度、確認を兼ねて補足をいれてくれ」

 


<街の形状と防壁について>


・街のカタチは円形状、規模は直径3km程度とする。


・その外縁部を高さ3mの石壁でグルっと囲う。城壁の幅も同じく3mにして高所からの攻撃を可能とする。


・外縁部の城壁から500m内側にも、同じく円形状に石壁を設置。これは、記号の二重丸をイメージしてくれると分かりやすいかもしれない。内と外の二重防壁により、外敵からの侵入を防ぐ構造だ。


・内側に作った壁の中、直径2kmの範囲を生活区域として、壁と壁の間は、将来の拡張区画もしくは農業区画として利用する予定でいる。万が一結界が消えた場合を想定して、この案を採用した。


「外側の壁は少し低い気がするけど、とりあえずの高さなんだろ?」

「はい、いずれは倍の高さにしたいです。でも先に街の中を優先しましょう。ひとまず3mあれば、オーク以下の魔物は登ってこれませんので」

「なるほど。それと、農業区画は必要なのかな? ナナシ村で作ったほうが効率いいと思うんだけど」

「これは将来、すべての人が村人になった場合を想定しています。もしそうなれば、街まるごと結界を張りますよね? 村長の判断に任せますけど、全員が街に引っ越してもいいようにしてあります」

「やっぱりそういうことか。たしかにそれも賑やかでいいよな」


 村には自宅もあるからちょっと迷うけど、ルドルグが建てた家に住むのも悪くない。パソコンや教会も移動できると思うし、活気のある街で住むというのも楽しそうだ。



<生活区画について>


・街の中心から、東西南北に向かって道幅の広い道路を建設する。これがメインの大通りになる。


・十字に区切られた区画のうち、北西を村人用の居住区にして結界で村化する。そして北東は開拓民の居住区とする。現在の人口だと、この2区画だけでもじゅうぶんな余裕がある。人口が10倍とかになった場合は、南側もしくは外縁部を整備していく予定だ。


・大通り沿いには、食堂や酒場、鍛冶場や機織りなどの生産施設を建設。役場的な機能は、街の中央に建てる予定の領主館で一括管理する。ここは、緊急時の避難場所や集会所としても利用する計画だ。

 なお、メリナードから提案のあったお城建設はさすがに却下してある。「私が死んだあとなら好きにしてくれ」と、やんわり伝えておいた。


・当面の間は食堂で飲食をおこない、街が完成した頃を見計らって各家庭での自炊に移行する。もちろん、食堂も酒場も継続運用していこうと思ってるけどね。このあたりは、街のみんなの希望に沿いたいと思う。


「ねえ村長……村人用の区画って、どうしても村化しないとダメですか? わたしの感覚だと、差別や嫉妬の原因になると思うんだけど」

「それについては散々悩んだよ。でもこの問題って、ナナシ村が存在する――もっと言うと、村人制度がある時点で避けられないと思うんだ」

「まあ、たしかにそうですけど……。じゃあ具体的にはどう対処を?」


 これまでもずっと、「開拓民に対する侮蔑は絶対に許さないこと」「村人に対する嫉妬は村長の意向に全く沿わないこと」、この2点については毎日の朝礼で耳にタコができるほど伝えてある。


 村長の意向に沿わない考えを持てば忠誠度は上がらないし、むしろ下がるだろう。今まで下がった人がいないので確実にとは言えないが、ある程度の予防線にはなっていると思う。


「なるほど。多少こじつけのような気もしますが、今までの実績があるなら大丈夫なのかな?」

「もちろん私も、全員が仲良くやれるなんて思ってないよ。どこの世界も、文句だけ言うやつが必ずいるしね。そんなのはここにいてもらう必要はない」

「ああたしかに……それ系の人、私の配信にもいましたよ。ブロックしたらしたで、さらに粘着してくる人とか……」

「あー、俺もそれ知ってる。一時期荒れてたもんなぁ……」

「そういえば、まだハンドルネームを聞いてませんよね? 村長って誰だったんですか?」

「え? いや……ま、まあ今はいいじゃん? 次いこうよ次!」

「えー、わたしだけ身バレですか? まあいいですけど……そのうち教えてくださいね?」


<街の結界設置について>


 どこに設置するかの前に、結界の変化について話しておこう。


 このまえ『敷地拡張』を強化したので、結界の高さだけでなく、形状も自由に変えられるようになった。先に結界を固定しなければならないが、あとでトンネルみたいにくり抜いたり、ドーム状に覆えるようになった。

 ただし、切り抜いた部分の敷地は戻ってこないし、その部分は村ボーナスも適用されない。結界に触れてないので当たり前だけどね。


・さっき話題にも出たけど、村人が住む北西の区画は全てまるっと結界で覆う。こうしておけば、家にいる間は村ボーナスの恩恵を受けられるし、夜間の安全は保証されることになる。それに健康や若さも保っていられる


・街の中央に建設する予定の領主館。ここは避難場所も兼ねているので、かなり広い庭を確保する予定だ。館の外壁沿いと天井部分をドーム状に結界化する

 

・あとは万能貯蔵庫を置く場所と、教会を移設した場合に結界化する。将来的には農業区域を――そしていずれは町全体を村化する計画だ


「領主館の出入り口は、正面の一箇所だけでいいですよね?」

「そのほうが守りやすいからね。あ、庭の真ん中に転移の魔法陣を設置するから、それを想定してくれるとありがたい」



 こうして開発計画もまとまり、あとは実現に向けてひた走るだけとなった。樹里の想定によると街の許容人数は3万人。外縁部も含めれば7万人規模の大きさになる。

 完成したところで、人の少ないスッカスカの街になりそうだが……いずれは日本からの移住だってあり得るんだ。夢は大きく持ちたいと思う。


「さてっと、ひとまずこの方針で決まりですねっ! 私の構想では、2か月もあればある程度のカタチになると思うので期待しててください!」

「そりゃ楽しみだ。慌てずじっくり進めてくれ」




◇◇◇


 その日の夕方は、各部署の代表者を集めて夕食を共にしていた。


 明日は女神に会う予定なので、聞いておくべきことをまとめるのが目的だ。信仰ポイントも10万を超えたので『世界の秘密』を解放するつもりでいる。いよいよ世界の核心に迫るときが来たわけだ――。



「――さて、女神への質問も大方出揃ったな。どこまで答えてくれるかはわからんけど、なるべく詳しく聞いてくるよ」


 日本への帰還方法が判明した今となっては、そこまで差し迫った問題はない。みんなが聞きたい内容も、疑問や質問というよりかは興味本位なものばかりだった。

 話し合いはまだ続いているけど、すでに雑談の領域に移っている。今も椿と桜が、当時を懐かしむように語り合っているところだった。



「私たちがなぜ飛ばされたのか。選ばれたのはどうしてなのか。やっとその理由がわかりますね」

「椿さんと出会ってから、もう1年以上経ちますもんね。まさか女神さままで登場するとは思いもしませんでしたよ」

「私もです。あのとき桜さんが声をかけてくれたおかげで、今日まで生き残れました。いまでも感謝していますよ」

「それはお互い様です。私も椿さんに、何度も助けられましたから――ずっと心の拠りどころでした」


 そんな会話を隣で聞きながら、私も当時のことを思い出していた。


 最初に出会ったのがこのふたりじゃなかったら、ここまで上手くいかなかっただろう。変な野郎に絡まれた挙句、村から一歩も出れずに野垂れ死んでいたかもしれない。村人を増やすという選択ができたのは、間違いなく二人のおかげだった。


「ところで桜、明日はみんな村にいるんだよな?」

「一時的にでも啓介さんが消えちゃいますしね。念のために村か開拓地で過ごす予定ですよ」

「そっかそっか。前のときも結界は維持されてたけど、みんなが残ってくれるならひと安心だ」

「村長不在の間にまさかの事件が……! なんて良くある展開に備えないとですし。あ、別にこれフラグじゃないですからね?」

「おいおい……まあ、1時間程度のことだし大丈夫なはずだ」


 やっとひと段落したところなんだ。そうそう事件が起きてもらっちゃ困る。そもそも、そんなわずかの間に何かあるわけがない。


「おい村長、自分で旗を増やすなよ……。オレも勇人さんも残ってるから大丈夫だ。気にせず行って来い」

「ちょっと冬也、あんたのソレもじゅうぶん匂わせだよ?」

「まあまあみんな、これだけ乱立させれば何も起こらないさ。明日は朝食後に出発する予定だから見送りにでも来てくれ。自分が消える瞬間がどんな感じなのかも知りたいしさ」



 まだまだ話は尽きないようだが、とにかく明日だ。いったいどんなことを聞けるのだろうか。おっさんはとても楽しみにしている。








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