第166話 ナナシ村戦力図


異世界生活395日目-108,000pt



 ケーモスの住民を受け入れてから10日が経ち、開拓地の開発もさらに勢いを増している。懸念していた離脱者も出ておらず、日々の生活に対する不満の声もほとんどあがってなかった。

 とはいえ、街を奪われた事実は変わらない。日本帝国に対しては、嫌悪の感情をずっと持ち続けている。


 一方、その当事者である帝国のほうは、あれ以来なんのリアクションもない。まあ、こちらから出向かない限り、接触のしようがないのだからそれも当然だ。

 そうは言っても、この10日間のうち一度だけ聖女と話す機会があった。彼女の弁によれば、北の防壁は完成、早くも街の開拓に着手しているみたいだ。獣人国の使者も来たらしいんだが……丁重にお帰り願ったと言っていた。


(暴動でも起こらない限りは、このまま定住できそうな感じかな? まあアイツのことだ……危険因子はすぐに排除してるわな)



◇◇◇


 今日は朝から、補佐官たちが主催する報告会に参加している。手元にある資料には、現在の状況がこと細かに記載されていた。


「――では次に、現在の人口についてを。次のページをご覧下さい」


 進行役の椿に従い、手元の資料に目を落とす。


===================

<ナナシ村の人口:1,040人>

犬人:147 兎人:74

猫人:140 狼人:70

羊人:140 魚人:33

熊人:116 狐人:20

鼠人:110 虎人:15

猿人:100 竜人: 4 日本人:71

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<ナナシア開拓地の人口:1,686人>

犬人:300 兎人:―

猫人:290 狼人:92

羊人:274 魚人:―

熊人:240 狐人:68

鼠人:205 虎人:26

猿人:191 竜人:―

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「現在、ナナシ村の人口は1,040人です。これは開拓地も含めてですが、未成年者の割合はおよそ1割程度となります。少ないように感じますが、この世界の成人は15歳と早いですし、今後生活が落ち着けば徐々に増えていくと考えます」


 一部を除いて、種族間のバランスもそこまで悪くない。日本人の数も程よく抑えられている。戦闘型の種族が少ないけど、村人は種族に関係なくレベルを強化しているので特に問題はなさそうだ。


「改めて見ると、全ての種族が揃ってるよな。今となってはナナシ村だけなんじゃないか?」

「蛇人を除けばそうですね。なんとなくですけど……ノアの箱舟を彷彿とさせます。結界の外はオークで溢れ出していますし」

「世界の終末か……。まあでも、ミノタウロスが出てこない限りは大丈夫そうだけどな、知らんけど」


 人口に関する問題は特にないので、議題が次へと進んでいく。


「では続いて、現在の保有戦力に関する報告です」


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<警備隊:100名>

ラド:戦士Lv93

ウルガン:槍士Lv92

ウルーク:剣士Lv91

精鋭13名(平均Lv84)

中堅44名(平均Lv75)

新人40名(平均Lv55)


<ナナシ軍:100名>

冬也:魔剣士Lv114

勇人:勇者Lv100

立花:剣聖Lv93

ドラゴ:竜闘士Lv108

ドリー:闘士Lv103

ドルト:闘士Lv99

ドレス:闘士Lv100

武士:武士Lv77

精鋭 3名(平均Lv85)

中堅50名(平均Lv77)

新人40名(平均Lv58)


<医療班:6名>

桜:魔導士Lv112

秋穂:巫女Lv107

葉月:聖女Lv92

杏子:賢者Lv103

ほか治癒士2名(平均Lv66)


<その他の戦力>

春香:上級鑑定士Lv104

ロア:魔法使いLv100

マリア:魔法使いLv88

ルクス:闘士Lv76

メリナード:商人Lv100

椿:農民Lv99

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「ご覧のように、警備隊100名、ナナシ軍100名を中心に現在もレベルアップは継続中です」


 各々、実に見事な成長を遂げている。


 ダンジョンにいる蛇人族は別にしても、地上においてはダントツの高レベル集団だと思う。小規模戦闘はもちろんのこと、超火力の魔法使いもいるので、集団戦にも対応できるはずだ。


「なお桜さんは、治癒魔法を習得した2名とともに、総司令と兼務して医療班にも配属しています」


 一週間ほど前、桜の要望を受けて『模倣』能力を継承してある。黒蛇狩りの編成上、どうしても回復役が足りなくなり、桜に治癒魔法をコピーさせたのだ。

 パーティーの安全性はもとより、彼女ならひょっとして……治癒魔法を使ってるうちにスキルが生えてくるんじゃないか、と密かに期待している。例えそうでなくとも、そのまま継承してればいいだけだしね。


「なあ桜、ちょっと気になったんだけどさ。武士のヤツ……レベルアップが早すぎないか? 命令無視で無茶やってんじゃない?」

「ああ、彼でしたら大丈夫ですよ。ルクスさんとふたりで効率狩りをしてますので。戦力面、精神面ともに全く問題ありません」

「それほんと? 疑っちゃ悪いが、調子に乗ってたりしないのか?」

「いえいえ、むしろ至って冷静ですよ。私も一度パーティーを組みましたけど、彼、戦闘センスは抜群です。判断力、応用力、安全管理、どれをとっても一級品でした」


(なんかものすごい高評価なんだけど……。でも桜が嘘つくわけないし、アイツってほんと何者なんだ? そういや、この前の提案も凄かったもんな……ダメだ、謎すぎる)


「そっか。でもそんなヤツが転移初日に捕まるって……いったい何をやらかしたんだアイツ」

「それは知りませんけど、どん底に落とされたことで覚醒でもしたとか? ファンタジー適正がずば抜けて高かったのかもですねー」

「なるほどなぁ。まあ、そういうこともあるんかな? ――いずれにせよ、問題ないなら良かった。ちょっと安心したわ」


 無茶してないならいいんだ。早く戦力になってくれたらありがたいし、ルクスもきっとノリノリで付き合ってるんだろう。


「ダンジョンのことに関しては、もうひとつ報告があります」


 椿がそのあと語ったのは、蛇人族との交流についてだった。


 現在の攻略階層は28階層で、蛇人族とはほぼ毎日のように接触している。これまでに渡した鱗の数は相当なもので、逆に向こうから貰う魔結石も日に日に増しているらしい。


 26階層に初めて挑んだ以降、私は一度たりともダンジョンへ潜っていなかった。別にビビってたわけじゃない、開拓地や帝国への対応で忙しかっただけだ……。


(いやほんとの話、そろそろ会いに行こうかなと考えてはいたんだよ)


 そんな言いわけを考えていると、それを見透かしたように桜が突っ込みを入れてくる。


「まあ、啓介さんは初日で満足しちゃったんですよね? まさか日和ってるわけじゃないでしょうし。私たちは結構打ち解けてきましたよ?」

「そ、そうなんだ? へぇ……それで、新情報は手に入ったのかな?」

「このまえ説明したことくらいですかね。鱗の効果が思った以上に高かったこと。30階層にも転移陣があること。ああそれと、蛇人族の先祖は地上に住んでたらしいってことでしょうか」


 私が浄化した鱗なんだが、所持しているだけでも汚染の症状を抑えてくれるらしい。「汚染度の高い者に携帯させている」と、スネイプニルが感謝していたそうだ。


 30階層の転移陣については、各ダンジョンの階段前に設置されており、蛇人なら誰でも利用できる。恐らく、という前置きはあったが、蛇人の誰かに同伴すれば、私たちでも最下層へと転移できる。

 正直これはかなりの進展だと思う。蛇人族の村へ招待される日も近いかもしれない。まあ、うがった解釈をすれば、「いつでも拉致できるんだぞ」という意味にもとれるわけだが……。


 最後の先祖については、古くからの言い伝えレベルの内容らしい。かつては他の種族同様、地上で普通に生活していたのだが……ある日を境にして、一族全員が最下層に落とされたんだと。

「そのむかし、蛇人族の信仰対象は月の女神だった。その神の怒りに触れたことで地底に落とされ、魔物堕ちという罰を受けた」という内容の話が代々語り継がれている。


「この前も思ったけどさ。やっぱそれ、女神の呪いっぽいよな。もしかしてあれかな? 信仰する女神の鞍替えが原因とか……。大地の女神も感情の起伏が結構あったし、案外みんな嫉妬深いのかもな」

「たしかに考えられますね。――ていうか啓介さん、そんなこと言って大丈夫なの? 女神さまはいつでも聞いてるんでしょ?」

「いや待ってくれ。みんなってのは、大地神さま以外ってことね?」

「ちゃんと訂正しとかないと、今度会うときに怒られちゃいますよ」

「そうだね……。あとで教会にも顔を出しておくよ……」



 ――そのあとも、食糧関連のことや村の整備状況の話をしたところで、昼食を挟むことになった。


 午後からは開拓地に赴き、今後の計画についてを話すことになる。


 むろん、その解説者はジュリア先生なので、いまの内にしっかり休息をとっておかなければならない。私と椿はもう体験しているが、桜は今日が初めてだからな……あのご高説を聞けば、さぞ驚くことだろう。








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