第149話 ちょっと気になる情報屋さん


異世界生活362日目-35,182pt

 難民が移住してから5日が経過



「――では村長よ、儂はもう行くぞ! 今日も鱗をしこたま持って帰るでの、楽しみにしておれっ」

「朝から引きとめて悪かったな。鱗は別にいらんけど……調子に乗って死ぬなよ?」

「うむ。メリナード、お主も早く来るのじゃ。向こうで待っておる」

「はいドラゴさん、後ほどお会いしましょう」


 早朝、ドラゴとメリナードの3人で、とある件について話をしていた。昨日の夜はタイミングが合わず相談できなかったんだ。こんな朝から出鼻をくじいて申し訳ないけど、その原因はドラゴの飲みすぎなのだから勘弁してほしい。


「じゃあメリナード、資金繰りのほうはよろしく頼むよ。最悪、村の芋を売ってくれてもいい」

「いえいえ、それには及びません。メリー商会の資産がありますし、村の収益分も預かっておりますので」

「それならよかった。じゃあ頑張ってな、大怪我だけはしてくれるなよ?」


 ダンジョンに向かうメリナードを見送り、案件も片付いたところで一息つく。



 いま話していたのは今後の情報収集に関することだった。森の入口は完全に封鎖したし、メリー商会もそろそろ撤退となる。新領主とも仲良くなれそうにない現状、「どうやって外部の情報を手に入れるか」が課題となっていた。


 そこで頼った先がドラゴだ。議長時代に使っていた諜報員の話を聞くと、正規の部隊ではなくフリーの情報屋ということがわかった。

 半年ほど前から利用しているが、かなりの腕利きでずいぶん深いところまで探れるらしい。少し前、王国や帝国の情報を持ってきたのもソイツだった。


 しかもその情報屋、聞くところによるとどうも日本人くさい。会うたびに顔や名前が変わるので、素性は一切不明らしいが……時折よくわからん単語が飛び出すと言っていた。


 以前村の話題となったときも、「ああ、あそこか。とにかく村長のスキルがヤバい。まあ、SLG(シミュレーションゲーム)好きには最高だろうけどな」ってことを言ってたようだ。


 当然この世界にそんなゲームはない。現地人が聞きかじったとしても、サラッと出てくる言葉ではないだろう。なお、日本人を匂わす発言がうっかりなのか、それともわざとなのかは不明のままだ。



 ――そんな裏事情を聞いたりして、最終的には依頼することに決めた。


 ただ、報酬がバカ高いのでメリナードにも協力を仰いだ。平たく言うと「お金を出してください、お願いします」ってことになる。

 今後はメリー商会に張った結界を拠点にして、情報のやり取りをする予定でいる。具体的な連絡方法については村の機密事項につき、しばらく伏せさせてもらおう。




◇◇◇


「椿、それにみんなも待たせてごめん。思いのほか話が長引いてしまった」


 今は自宅のリビングに戻って来たところ。その目的は、椿が選んだ補佐役たちのお披露目。昨日正式に決めたらしく、「まずは村長への紹介を」ということになった。



「大丈夫ですよ、私たちもさっき来たところですから。それより、例のお話はまとまりました?」

「ああ、昨日話した通りだよ。依頼料もメリナードが出してくれるって」

「それは良かったです。――では、補佐の方たちを紹介しますね」


 椿の脇には、三人……いや、四人の補佐官が並んでいる。予定では三人のはずなんだけどな……ってアレ? この人ってたしか――。


「今回は、農業担当、物資担当、住民担当の三役を選びました。それと……あとで紹介しますけど、建設担当も追加しています」

「あ、うん。みんなよろしく頼むよ。椿の指示には必ず従うこと、それと自分の意見は遠慮なく伝えること。このふたつは守るように」


「「はい、わかりました!」」



 私のあいさつに続いて自己紹介タイムが始まる。三人が席に着くと、これからの業務内容や自分の長所短所なんかを教えてくれた。テーブルを挟んでの対話は、まるで面接をしているかのようだ。つい昔の仕事を思い出し、懐かしさを感じながらしばらく話を聞いていく――。

 今回椿が選んだのは、三人ともメリー商会の女性職員だ。読み書き、算術、応対力と、どれも申し分ない能力を持っている。今回は三人だけだが、いずれは六人体制にする予定らしい。


「――それではみなさん。私の部屋で資料の確認をお願いします。私もあとで行きますね」

「「はい、よろしくお願いします」」




 三人の紹介が終わると、今度は残されたひとりが着席する。


「啓介さん、この方は5日前村人になった樹里じゅりさんです。『設計士』の職業をお持ちで、村や開拓地の開発計画に参加したいそうです」


(やっぱりそうか。この前の宴会で模型を作ってた人だな)


「村長さん初めまして、樹里っていいます。わたし、どうしても街の開発に携わりたくて……椿さんにお願いして連れてきてもらいました」

「樹里さん、私のところへ毎日来てましたもんね。あ、ちなみにですけど、建設や建築関係に相当詳しいみたいですよ」


(俺……やっぱりこの人知ってるわ。声にも聞き覚えがあるし、同業者だったのかな?)


「樹里さんて、建設業関連のお仕事されてました? ひょっとして私、あなたと会ったことありません?」

「えっと……ごめんなさい、たぶん初対面だと思います。それにわたし、全然違う職種でしたので……」


(あいたたた、ヘタなナンパみたいになっちゃったよ……。おいこれ、ヤバいおっさん認定されてないよな?)


「そ、そうですか。なんか、凄く聞きなれた声だったので……決して他意はないのでご勘弁を」

「いえ大丈夫です。それより開発のことなんですが……どうでしょうか?」


 ふむ、設計士のスキルはたしかに凄いけど……土木の知識があるのか、経験はあるのか、そのあたりは押さえておきたいところだ。


「ん-。気持ちは嬉しいし、やる気も買うけど……まずはどの程度知識があるのか教えてほしいかな?」

「わかりました。ではまず現在の村の区画ですが――」



 そこからの樹里さんはすごかった……いや違う、恐ろしかった。


 村の区画や道路整備に始まり、水路や排水施設、他にもどんどんどんどんダメ出しが飛び出す。言い方はとても柔らかいんだ。トゲもないし丁寧なんだけど……その内容は、エグ過ぎると言っても過言ではなかった……。


「あのぉ……啓介さん? 私……三人のところへ行ってきてもいいかなぁ、なんて思ったりして? ちょっと長くなりそうですし……」

「へ? あ、うん、どうぞ……。できればまた戻ってきてね」

「(ごめんなさい……)では失礼します」


 予想を大幅に超える語り草に、椿もたまらず退散していった。樹里さんと二人きりの空間には、かなり微妙な空気が流れている。


「あ、なんかごめんなさい。どうしても気になってしまって……」

「いやいや、いいんだよ。言ってることは的を射てるし私もすごく参考になる。遠慮しなくていいよ」

「え、ホントです? じゃあ次は開拓地の方なんですけどねっ――」


(あっ……これアカンやつや……)


 気づいたときにはもう遅い。そのあとも、おっさんのメンタルはガリガリと削られていった――。


 開発や設計の知識は薄いが、一応そっち系の業界出身なのだ。ある程度は考えて育てた村なのに……。まさかここまで畳みかけられるとは思いもしなかった。


(おいおい嘘だろ、一体いつまで続くんだコレ。いっそのこと、全部この人に任せることにして俺も逃げちゃおう、かな……?)














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