第148話 気になる女性
異世界生活357日目-23,256pt
難民たちの大移動から一夜明け、開拓地の人口は一気に増えていた。
建て過ぎた長屋も半分くらいは埋まったので、ホッと一安心している。前向きに考えれば、ひとりあたりのスペースを2倍確保できるのだから、快適性は向上しているはずだ。
昨日はバタついていたので、難民の統計なんかは後回しだったけど、それもようやく確認することができた。
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犬人 :166名 兎人 : 42名
猫人 :162名 狼人 : 33名
鼠人 :150名 虎人 : 10名
羊人 :142名 狐人 : 10名
熊人 :125名 日本人: 50名
猿人 :100名 合 計:1,010名
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こんな感じで、一部を除く種族間のバランスはそこまで悪くない。
戦闘に特化した狼人族と虎人族は、北部の自領で活動しているため、そもそも難民の数が少ない。また、狐人が少ない理由は明白、新領主が狐人であるからだ。
「同族の自分たちは優遇措置が受けられるはず」と考える者が大多数を占めていた。領主館に残った者も、そのほとんどが狐人たちであった。
あと、西の森に隠れ住んでいた兎人だけど……ラドたちを見つけるとすぐに打ち解けていた。ちなみにこの種族だけは、全員が開拓地へと移住している。
「春香さん、全員の記帳が完了しました。問題ありませんので誘導を」
「はーい、じゃあ順番に転移してねー。村にも担当者がいるから、その案内に従ってくださーい」
今は都合7度目となる『村人認定式』を終えたところだ。椿と春香が手慣れた感じで誘導している。
今回村人になったのは150人、元々の開拓民50人と難民のうち100人が対象となっている。その中には50名の日本人も混じっており、割と元気そうな表情で移動していった――。
「ふぅ……やっと一息つけますね。啓介さんも鑑定お疲れさまでした」
「いやいや、どう見ても椿のほうが大変だろう。開拓民も大幅に増えたんだし、そろそろ補佐をつけたら?」
「ですね、業務に支障が出てもいけませんし……何人か候補がいますので、そうしたいと思います」
「ああ、なるべく早めに頼むぞ。――しっかし、村人が一気に増えたよね。これでもう731人だぞ、もちろん嬉しい悲鳴だけどさ」
「フフッ、信仰度もガッツリ入りますね」
「でもまた、ゴッソリ減りそうだけどな」
そんな笑い話をしながら、午前中はのんびりと過ごすことにした。
今日は全休日にしてあるので、おのおの自由に過ごしている。むろん難民たちも同じだ。長距離移動の疲労もあるし、精神的な負担も大きい。5日ほど休息をとらせ、開拓作業はそのあとから始めさせるつもりでいた。
(慌てなくていいから、じっくり馴染んでくれるといいなぁ)
――それはそうとして、議会への食糧提供は中止することに決めたよ。
もうマトモな移住者は来そうにないし、魔道具やお酒など、街でしか手に入らないものは粗方買い込んである。それこそ何十年単位の在庫を保管済みだ。もちろんメリー商会もすぐ撤退できる体制をとっている。
まあそれは建前の話でさ。取引中止の決め手はゼバスの……さらに言えば領主や議会の対応だけどね。もっと上手く立ち回れば、こっちを丸め込むような対処もできたはず。例えばだけど、「難民の移住を全面的に支援する」なんて言われたら、私もそこまで無下にしなかったし、食糧取引だって継続するつもりだった。
(狐人の領主は敏腕だと聞いてたけど……ゼバスの態度を見る限りでは、とてもそう思えないわ)
◇◇◇
その日の午後からは、毎度恒例となった歓迎会が開かれていた。
いくらバカでかい食堂とはいえ、さすがにこの人数が揃うと狭すぎる。半ば無理やり押し込んでるけど、立ったままの人もたくさんいる状態だった。
「なあルドルグ、増築するなら二階建てにするしかないよな?」
「おう、この場所のままならそうなる。もう目一杯広げてあるしな。別の区画に立て直すか、ここを二階建てにするか。その二択しかねぇぞ」
「俺としては、場所はこのままがいいんだよ。ちょうど村の中心だしさ」
「飯は家に持ち帰えりゃいいだろ?」
「それはもっと後にしたいんだ。せめて、村人同士が顔を覚えるまではな」
こんなに多くの人がいるんだ。当然、ひとりで静かに食べたいヤツもいるだろう。けど、今はまだ早い。村人の増加が落ち着き、見知った仲になるまではこの状態を維持したかった。
別に「全員と仲良くなれ」ってわけじゃない。お互いの顔と名前くらいは知っといて欲しいのと、「なあ、あいつ誰だっけ?」みたいなのを避けたいだけだ。
「よっしゃ! 一階は通常の食堂、二階は酒場兼食堂、ってな感じでいいか? まあ長のことだ、どうせ毎日見に来るんだろ? しかたねぇから、その都度提案を聞いてやる」
「それはありがたいね。見返り、ってわけじゃないけど、街から撤退する前に上物の酒を買い込んでおくよ」
「おっ、よくわかってんじゃねぇか! ――っと、そろそろ始まるみてぇだぞ」
食堂増設の話がまとまったところで、今回村人になった人たちの自己紹介が始まった。
部族単位の挨拶に始まり、家族とか知り合い同士の紹介、個人で壇上に立つ人など様々だ。手短に済ます者もいれば、長々と自己アピールするヤツなんかもいて個性がよくでている。めちゃくちゃ緊張するだろうけど、せめて最初くらいは頑張ってほしいところだ。
誰かが挨拶をするたびに、村人からは盛大な拍手が起こる。700人を超える集団のそれは、まるで何かの受賞式みたいだ。酔っ払いもいるけど、他者を煽るようなヤジは飛んでない。終始温かい雰囲気で自己紹介が進んでいった――。
そんな最中、ひとりの日本人が壇上に立つ。見た目は20歳くらいで、黒髪の似合うちょっと童顔の女性だった。
「初めまして、わたしは
(あれ……?)
「西の街では、スキルを使って模型を作ってました。それを売って暮らしてたけど、この度ここでお世話になることになりました。皆さん、どうぞよろしくお願いします!」
(スキルで模型って何だろう? にしても……どっかで聞いた声だな)
そんな引っ掛かりを覚えつつ、樹里という女性を鑑定してみる。
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村人:忠誠64
職業:設計士
スキル:設計Lv3
目視した範囲の測量が可能となる
対象:距離、高さ、角度、重量
スキル:模型Lv3
素材を消費してイメージした物を作り出す
対象:土、木材、石材
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この樹里さん、スキルを2つも所持しているし、両方ともなかなか面白そうな内容だった。村の測量士としてぜひとも活躍してほしい人材だ。模型スキルなんて、使いようによっては凄いことになりそう……。
てかこの人、あの見た目で30歳なのか。どうみても20代、ヘタすりゃ10代後半なんだけどな。声も特徴的なので余計にそう思えてしまう。
「――とまあこんな感じで、作れる大きさに制限はありますけどね」
その間にも説明が進み、今も薪を使っての実演がおこなわれていた。樹里さんの手には、村の教会にそっくりな模型がある。まさに一瞬、アッという間に完成させていた。村人からは割れんばかりの拍手が送られ、本人も嬉しそうにしている。
「あ、ちなみに武器とかは作れません。なぜかはわかりませんが、建設関係のものだけです。それでも村の発展に貢献できればと考えてます」
そう注釈をしたあと、丁寧なお辞儀をしてから自分の席に戻っていく。武器の模型は無理らしいけど、それを抜きにしても素晴らしいと思う。村や開拓地の建設計画にも一役買ってくれそうだ。
――やがてみんなの自己紹介が終わると本格的な宴会が始まる。既存の村人たちも積極的に言葉を交わし、あちこちで新たな村人たちを歓迎している。
正直私も、これだけ人が増えると名前と顔を一致させるのが難しくなってきた。村長と言う立場なので、相手は私のことを認識してるはずだ。だったらこちらも、失礼がないように早く覚えなければなるまい。
(それにしてもさっきの人、なんか気になるんだよね。知り合いや有名人ならすぐ思い出すだろうし……まあいっか、今度直接聞いてみよ)
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