第144話 たけし、再び
これも何かのお導きか。不運が重なり? 予定より早く商会へ戻ることに。その結果、特務隊の武士と偶然の再会を果した。
ついに奴隷から解放されたらしく、詳しい事情を聴くためにメリー商会へと誘った。さっき不吉なことがあったので、見知った場所で落ち着いて話したかったのだ。となりで戸惑う武士とともに、メリマスの案内で応接室へとついていく――。
(しかし、さっきは馬鹿やったよな。いつもならもっと慎重なはずなんだけど。街に来ると……いや違うな、村から出るとなぜか迂闊な行動をとってしまう気が……)
ひとりで出歩くなんて危険なこと、なぜ考えてしまったのだろうか。自分でもよくわからなかった。油断と言えばそれまでだが、もっと根本的なことのような気がしてならない。
(あれ? でも以前、椿と一緒に来たときは普通だった気がする。警戒もちゃんとしてたし……? いかんいかん、もっと注意しないと……いつか痛い目をみるぞ)
「村長、すぐにお茶をお持ちしますね。お客様、何かご希望のものはございますか?」
「あ、いえ。何でもいいっす」
「かしこまりました、ではごゆっくり。――ウルガン、あとは頼みましたよ」
メリマスは、護衛のウルガンに声をかけると静かに退出していった。それを確認した武士は、待ってましたと言わんばかりに話しかけてくる。
「啓介さんマジで何者!? それに村長ってどういうことなんすか?」
「あー、それについては後でちゃんと話すよ。それよりさっきの続きを頼む。奴隷解放の件な」
「……わかりました。えっと、まず、奴隷から解放されたのは2か月くらい前っすね。――ところで啓介さんて、日本帝国の存在とか、日本人奴隷が大量に寝返ったの知ってます?」
「ああ、大体は把握してると思う」
「解放されたのはその事件の少し後です。オレたち戦闘奴隷は全部で3千人。そのうち2千5百人が寝返りました。んで、残った5百人が首都に集められ、すぐに解放されました」
(なるほど、人数も以前メリナードから聞いた通りだな)
「その間、街の警備はどうしたんだ?」
「連合軍と入れ替わりっすね」
「じゃあ解放された理由は?」
「さっきも話したけど、功績が認められたからですよ。ただ……違う噂もあるにはあります」
「へぇ。奴隷のままにしておくとまた帝国に奪われるから、とか」
「鋭いっすね。ひょっとしてそれも知ってました?」
「いや、ただの想像だ。事実がどうなのかは知らない」
(やっぱり善意の解放じゃないわな。それでも結果的には信用を得てるし、上手いことやったもんだ)
「それで今も特務隊として活躍してるわけか。今度は正規雇用として」
「解放してくれたのは事実だし、給与も待遇もかなり良いんですよ。たぶん、やめたヤツはほとんどいないかな」
「なるほど、良くわかったよ。貴重な情報をありがとう」
話が一区切りしたところで、商会員がお茶とお菓子を用意してくれた。
ふたりでそれを頂きながら、今度は村のことを話していく。私がナナシ村の村長であることに始まり、開拓地の様子や、椿が活躍していることなんかも説明する――。
こっちも情報をもらったわけだし、今さら隠す必要もないので重要なこと以外はだいたい教えた。
「まじか……あの芋とか米は啓介さんが作ってたのか。いいなぁ、オレも最初にヘタやらなけりゃなぁ」
「なんだったら、村人になれるか試してみるか?」
「おっ、忠誠度ってヤツっすね。じゃあ参考までに聞いとこうかな」
正直私も、どんなもんなのか気になっている。出会いのときこそ無視されたけど、話してみるといいヤツだった。今日の会話でもスレてる感じはないし、裏がありそうにも思えなかったからだ。
忠誠度の確認は大事だし、本人も乗り気なので居住の許可をだして鑑定をこころみる――
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武士 Lv38
村人:忠誠75
職業:武士
スキル:刀術Lv4
刀の扱いに大きく上方補正がかかる
刀で攻撃する際の威力が大きく上昇する
スキル:居合切りLv1
納刀状態からの居合切りで斬撃を飛ばす
※斬撃数:1
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「ありゃ……マジかよ」
「うぇい? なんすか、もったいぶらずに教えて下さいよっ」
予想以上の高数値に思わず変な声がでた。75ってことは『村長にかなり高い信頼を置いている状態』だ。まだ2回しか会ってないのに、どこにそんな要素があったんだろうか。
「すまん、忠誠度が高すぎて驚いちゃった。余裕で村人になれるぞ」
「おっ、じゃあ村に住んでもいいってことっすか?」
「忠誠さえ下がらなきゃな」
「っしゃあ! これで異世界を満喫できる! あ、でもすぐには無理だけど……それでもいいすか?」
「ああ、好きなタイミングで来ればいい。でも、所在だけはハッキリさせとけよ。遠征するときはメリー商会に伝えておくように」
「ラジャっす!」
(性格は悪くないけど、なんか口調が軽いんだよな……)
本人に悪気はなくても、「あれ? なんかマズいこと言っちゃいました?」みたいな展開になりそうで少し怖い。
――それから30分ほど雑談を続け、帰り際に倉庫へ寄って結界に入れるかも確認した。転移陣のことも教えたので、そのうちひょっこりやってくると思う。
「じゃあ、オレ行きますね。偶然とはいえ、今日は会えて良かったっす! 椿さんにもよろしくっ」
「ほんとに今日は村に来ないのか?」
「はい、仲間としっかり話し合いたいので。それと任務のきりがついてから行きます。中途半端はしたくないし」
「そういうところは律儀なんだな。――ああ、それとな。くれぐれも転移陣のことは秘密で頼むぞ?」
「大丈夫ですって! なんせオレ、こう見えて口は堅いほうなんでっ」
(うわー、ウソくせぇ)
「……わかった。村に来るまで死ぬなよ、また会おう」
「ウイっす!」
こうしてまたひとり、個性の強そうなヤツが村人になった。
◇◇◇
その日の夕方、村に戻った私は鍛冶場に直行していた。ベリトアとベアーズに刀を発注するのが目的だ。
武士は雑談のなかで、「刀術も居合切りも、刀じゃないと発動しないんすよ……」と
そこで『魔鉄』のことを思い出し、ふたりに相談して作ってもらうことにしたのだ。
「刀のイメージはたぶんこんな感じだと思うんだけど……作れそう?」
「どうかなぁ、やってみないとわかりませんね。強度はいけると思いますけど……おじさんはどう?」
「――通常の剣に比べて刀身がかなり細いな。
「急ぐ必要はないよ。上手くいったら儲けもの、くらいの気持ちで頼む」
「わかった。今は鍋の製作で手いっぱいだからな。それが終わったら試してみる」
やはり、鍛え方がわからないんじゃ厳しいか。武士には悪いがあまり期待しないでおこう。
――結局このときの話は、刀が完成することで丸く収まるわけだが……そのやりとりについては、またの機会にしたいと思う。今は、その立役者が冬也だったことだけ語っておくよ。
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